『  雨 』






                    「あっ」
                    ジョーは窓から空を見ると部屋から廊下へ出た。

                    ちょうどその頃、本を読んでいた健も顔を上げた。
                    しかし彼は窓からの光景を見てため息をついた。
                    「雨だ。今日は天気予報雨だって言ってたっけなあ」
                    健は閉じた本を小脇のテーブルに置くと、立ち上がった。
                    そして何気なく窓から眺めていた彼は下に視線を移してこう言った。
                    「・・・あれ?あいつ、何してんだ?傘もささずに」

                    庭ではジョーがしとしとと雨が降る中、じっと空を見上げていた。
                    背後から健が近づいても全く気が付かない。
                    彼はスッと傘をジョーの頭上に差し出した。
                    「濡れちゃうよ」
                    ジョーは振り向いた。
                    「・・・何だ、お前か」
                    「お前か、はないだろ。せっかくー」
                    「雨が降ってるから見ていたんだ」
                    「何で?雨だよ」
                    健はジョーの言っていることが解らなかった。不思議な事を言うもんだ。
                    「だからだよ。ボクの生まれた島はあまり降らないから。
                    こんなに降っているのを見るの初めてなんだ」
                    「そうなんだ・・。ボクはしょっちゅうさ。
                    雨が降ると遊べなくなるからつまんない。家にいなくちゃいけないから
                    ね。ボクはいつも一人だったから・・」
                    ジョーはちらと健を見た。

                    しばらく2人はそうしていた。が、ジョーがくしゃみをし、健は笑った。
                    「ほーら、風邪引くぞ」
                    「・・うるさいなっ」
                    「戻ろうよ」
                    2人は家の中に入った。
                    すると家政婦から聞いた博士が慌てたようにやってきた。
                    ジョーは鬱陶しいとおもいつつ、渡されたタオルで濡れた髪と服を拭い
                    た。
                    すると博士は家政婦に何かを持ってくるように言った。
                    彼女が持って来たのはホットミルクだった。
                    「これで温まりなさい」
                    2人はソファに腰掛けてホットミルクを味わった。
                    体の芯からじわっと暖かいものが伝わってくる。
                    何だか気持ちが優しくなる気がするから不思議だ。
                    そんな時、ジョーはうんと小さな頃を思い出していた。
                    温暖な地中海気候のため、島にはいつも太陽の光がサンサンと降り注ぎ、
                    雨が滅多に降る事はない。
                    しかし一度だけたくさん降った日があった。
                    ジョージは嬉しくて雨の降りしきる中庭で駆け回った。
                    それを見た母親のカテリーナはびっくりして彼を中へ入れた。
                    そしてタオルで彼の全身を拭いてやり、暖かいレモネードを作ってくれ
                    た。
                    きっと天国にいるカテリーナが
                    「しょうがない子ね」
                    と笑って見ているかもしれない。
                    ジョーはそんな事を考えた。

                    「あ、雨上がったよ」
                    2人はまた庭に出て行った。
                    まだ芝生も濡れていたが、構わず駆け出した。
                    頭上には太陽が輝き、木々や草むらに残った雫がキラキラ光を放った。

                    それからその日は雨が降る事もなく、2人は日が落ちるまで遊んでいた。



                                   ー 完 ー







                                    fiction