『 ギャラクターの刺客(前編)  』





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                ある一室に男は向かった。そして 出口外に立っていた見張りは彼を見ると
                無言でドアを開け、中へ入れた。
                男はふうと息を吐くと、意を決したように前に進んだ。
                「よく来た。待っていたよ。」
                「・・・わたしに何の用です?カッツェ様。」
                「お前に頼みがあるのだ。確か、お前はここに来る前はレーサーだったな。」
                男はじっとカッツェを見据えた。
                「・・・もう昔の話だ。」
                「この男だ。」
                男はカッツェの差し出した写真を受け取った。
                「こいつは今や名の知れたレーサーだ。名はコンドルのジョー。あの憎き
                科学忍者隊の一人。そして、本名はー「ジョージ・浅倉」」
                男は顔を上げた。
                「・・・浅倉?」
                「うん、お前も知っているな、あの男は。そう、こいつはあのジュゼッペ・
                浅倉の息子だ。我々は裏切り者は名とともに抹消するのが鉄則だが、あいつは
                最高幹部まで登り詰めた男だ。そう簡単に消えることはない。やつを崇める
                者はいるが、疎ましく思うやつもごまんといる。殺されて当然、と思っている
                やつらばかりだ。」
                「で、俺にどうしろと?」
                「近々大規模なレースが行われる。多分こいつも出るだろう。お前も出場して
                この男をさらってくるのだ。怪我をしてもかまわん。ただ、殺すなよ。それは
                こちらでやるのだからな。」
                「解った。こいつの仲間が助けに来たら?」
                「そのときは援護する。安心するがいい。」
                男は軽く会釈をして部屋を出た。
                カッツェは机上の装置のボタンを押した。
                「始めるぞ。いいか、抜かるなよ。監視をしておけ。」


                レース場では大観衆の熱気で始まる前からボルテージが上がっていた。
                それぞれのピッチでは、多くのメカニックたちがそれぞれのマシンを点検して
                いる。
                ジョーはこの始まる前の少し穏やかな雰囲気が好きだった。
                一旦レースが始まるとひたすらゴールを目指す過酷な戦いが繰り広げられる。
                こうのんびりできる時間は貴重だ。
                ただ、スタート地点に並び、エンジンを吹かしている時の緊張感はまた何とも
                言えずたまらない瞬間だ。
                「キャー、ジョー、サインして〜」
                フェンス越しに多くのファンが騒いでいた。見ると若い女性や子供達、手には
                サイン帳を持っている。
                ジョーはそんな彼らの一人一人にサインをするのがお決まりの行事のようになって
                いた。用紙だけでなく、着ている服にサインをねだる者もいる。
                彼は嫌な顔一つせず、笑みさえ浮かべて彼らの要求に応えていた。

                そんなジョーの背後に一人の男がやってきた。
                そしてじっとファンの相手をしている彼を見つめた。
                手にしてた写真をちらと見ると、ポケットに仕舞い、ファンから離れたジョー
                に近づいた。
                「やあ、ジョー。凄い人気だね。」
                「そうでもないさ。・・あんたは?」
                「同じレースに出る。と言っても、出場していたのはだいぶ昔だから、久しぶり
                だがね。身体がなまってないか心配だ。」
                「そうか、だが手加減しないぜ。」
                「ああ。」
                ジョーは行ってしまったが、男は彼の後ろ姿を見つめた。
                「・・・こっちもやらせてもらうよ。」

                各マシンが配置に付いた。
                エンジンを吹かしているため、あまりに湯気が立ち込める。
                周りの観客もより大きな熱気に包まれていた。
                カウントダウンが始まり、フラッグが振られた瞬間、一斉にマシンは走り出した。
                どのレーサーも超一流ばかりなのでかなりデットヒートになりそうだ。
                爆音を轟かせ、コーナーを次々と走り抜けていく。
                男は加速し、前の方に走るジョーのマシンを捉えた。
                「ふん、雑魚どもが多少五月蝿いな。」
                彼はジョーが一人になるのを見計らってさらう事を考えていた。
                まあジョーだったらきっと後半加速してトップに躍り出るだろう。
                とその時だった。
                ジョーの近くを走っていたマシンのタイヤがいきなりパンクし、煙を上げてスピン
                し始めた。
                「・・何か踏んだのか?」
                ジョーは横目で見たが、そのまま走らせた。
                そのマシンは他のマシンに当たり、2台は壁にぶつかって止まってしまった。
                男はその横を通り、ジョーの後ろにピタッとついた。
                ジョーはミラー越しにそのマシンに乗っている男を見た。
                「・・・ふん、あいつなかなかやるじゃねえか。」
                しかしその瞬間に眉をひそめた。男が小型のライフル銃を手にし、前方のマシン
                に焦点を合わせたからだ。
                そして次の瞬間には突然火を噴き、マシンが炎上して止まってしまった。
                「何っ?」
                ジョーは振り向いた。
                しかしそれだけではなかった。周りのマシンがクラッシュしたりスピンをしたり
                と故障だらけになった。
                何かが飛んで来た。
                ジョーはそれが爆弾だと直感で察知し、車から降りたが、同時にそれが大きな
                音とともに大爆発した。
                「どういう事だ・・」
                ジョーは振り向いて、燃えるマシンを恐ろしげに見つめた。
                と、やってきた男を見上げた。
                「おい、お前ーうっ」
                ジョーは男に何かをかがされ、気を失った。
                「・・・・。」
                一連の騒ぎで警備員により観客が次々と退場させられる中、男は空に向かって
                手を上げた。
                1台のヘリがやってきた。
                地上へ降りると、数人出て来てジョーを抱え中へと運んだ。
                そしてヘリは上空へと高くのぼり、そのまま飛び去った。



                               (つづく)







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