『 決意のト ラック 』






                 大きな音と共に爆発が空高く起き、閃光と同時にバラバラと
                 鉄の塊が海に落ちて行った。
                 そして火の鳥が旋回したと思うとゴッドフェニックスは
                 そのまま遥か遠くへと飛び去った。

                 鉄獣の出現により、また小さな町が破壊されてしまった。
                 これから人々は町の復興に精を出さなければならない。
                 ここのところ繰り返される風景だ。

                 G−号機を走らせていたジョーは、町外れのところへ来ると
                 変身を解いた。
                 彼はこうした荒れた町を見るのが嫌だった。
                 見るも無惨に崩れた建物、下敷きになってしまった住民も
                 いる。泣いている子供の声、ふらふらと歩く老人。
                 そんな住民の中で特に弱者である彼らの姿はとても痛々しい。
                 ジョーは敢えて見ないようにしてそのまま加速していたが、
                 ふと横目で見た風景を見てブレーキを掛けた。
                 大きなレース場で、数台レーシングカーが疾走している。
                 ジョーは木陰に車を止めると、降りてそこへ向かった。
                 お客はまばらだったが、それぞれの贔屓の応援をしている。

                 ジョーは少し離れた場所にしばらく立っていたが、そこへ
                 一人の男が近づいて来た。
                 「ジョー」
                 ジョーは彼を見た。
                 「ああ、アントニオ。久しぶりだな。」
                 「全くだ。最近姿を見せないが、どうしてる?みな心配して
                 るぞ。」
                 ジョーは笑った。
                 「心配か・・俺は元気だぜ。」
                 「そうか、それなら良かった。」
                 そんな2人が会話をしていると、そこにいたファンたちが
                 一斉に色めき立ち始めた。
                 ジョーは今やトップレーサーの一人だし、アントニオも、彼と
                 同期で人気もジョーと二分し女性はや子供はもとより、男性に
                 とっても憧れの的だった。
                 彼らはしばらくそんなファンのサインに応じたり談笑したり
                 していたが、やがて彼らが離れるとアントニオはこう言った。
                 「見ろよ、ここも最近は活気がなくなった。ギャラクター、
                 だっけ?あの連中のお陰でこの有様だ。あのどでかい機械の
                 仕業で人々が来なくなってしまったんだ。」
                 ギャラクターのメカ鉄獣の出現はこうした住民たちの楽しみ
                 もを奪ってしまっているという事らしい。
                 レースが減って、彼らレーサーにとっても大打撃だ。
                 「早く、あの科学忍者隊とやらが奴らを叩きのめしてくれる
                 といいんだがなあ。」

                 ジョーはじっとトラックを見つめた。
                 そう、アントニオの言う通り、早くギャラクターを倒し、
                 仲間たちと思いっきりコースを飛ばしたい。
                 そんな日々がいつかはやってくるのだろうか。
                 俺は必ずやる。人々の笑顔、楽しみを取り戻すんだ。
                 アントニオはジョーを見て言った。
                 「どうだい?ジョー。これから一緒に軽く走ってみないか?」
                 ジョーは彼を見た。
                 「ああ、手加減してくれよ。」
                 「はは、それは俺のセリフだ。」
                 2人は笑った。
                 「あーっと、その前にパドックへ行こう。みんないるからな。
                 きっとお前を見たら、喜ぶぜ。」
                 アントニオはポンポン、とジョーの肩を叩いた。
                 そしてまるでそれが合図のように2人は歩き出した。

                 そして2人の姿は仲間たちの歓喜の渦に埋もれて見えなくなった。








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