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                                 『悔改』

               BC島のとある小高い所にその教会は建っていた。
               中で祈りを捧げていたアラン神父は、戸を叩く音に気づいて立ち上がった。
               「どうぞ、開いていますからお入りください。」
               戸を開けると、頭から黒っぽいフード付きのコートを羽織った人物が立っ
               ていた。
               顔はよく分からない。
               「どうされましたか。」
               その人物は1枚の写真をアランに見せた。
               「この娘は神父さんの婚約者だと聞いたが。」
               そこには若い女性が写っていた。
               「彼女がどうしたのです?」
               「死んだよ。」
               「…死んだ?…事故ですか?…病気でですか?」
               「殺されたのだ。科学忍者隊のコンドルのジョーと言う男に。」
               アランは目を一瞬吊り上げて繰り返した。
               「…殺された」
               「それでは、これで。」
               男は背中を向けて立ち去ろうとした。
               「待ってくれ。あなたは一体ー」
               しかし男は何も言わずそのまま姿を消した。
               アランはその場に立ち尽くした。
               あの男は何者で何故彼女の事を知っている?
               しかし彼はそんな事よりも、彼女が死んだ事の方が重要だった。

               アランは中に入ると、十字架の前に跪き目を閉じた。
               そして暫くして立ち上がり、椅子に腰掛けた。
               (…科学忍者隊…何故彼女を?…正義のためにいるのではなかったのか?…
               コンドルのジョー…)
               彼は徐に聖書を手にし、読みかけた箇所に目を落とした。
               アランは考えた。
               婚約者を殺したコンドルのジョー…。


               彼女が死んだ。
               殺された。
               私はその男を憎むべきだろう。 
               しかし、憎んだところで彼女が戻る事はない。
               むしろその男の心の闇を取り去ってやる事が、私の役目ではないか?
               多分その行為をした裏には何かそうさせるものがあったに違いない。
               そして、もしその男が“彼”であるならばー。

               彼は両親を殺した相手を憎んでいる。
               きっとその憎しみが彼を支配し、彼女を殺める事になったのだろう。
               故意か偶然かは知らないがー。

               もし今後彼に逢えたなら、彼を赦し、私も彼女の元へ行こう。
               無意味な殺傷ほど愚かなものはない。
               きっと彼女もそう願っているはずだ。

               主よ、どうかこの罪深き我々を清めお導きください。


               アランは深く息を吐き、静かに聖書を閉じると、近くの小机の上に置いた。
               そして立ち上がり、礼拝室を出た

               アランが目に留めた聖書の箇所にはこう記してあったー。

               『だれに対しても悪をもって悪に報いず、すべての人に対して善を図りなさい。
               あなたがたは、できる限りすべての人と平和に過ごしなさい。
               愛する者たちよ。自分で復讐をしないで、むしろ、神の怒りに任せなさい。
               (中略)
               悪に負けてはいけない。かえって、善をもって悪に勝ちなさい。
               (ローマ人への手紙第11章17〜21節)』




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