『 相棒エピソード0 <3>才能 』




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                ジョーには時間になると必ずチャンネルを合わせる番組があった。
                世界で開催されるレースの国際大会だ。
                スポーツカータイプやF1タイプの車たちが颯爽と画面を駆け抜けていく。
                南部はそんな彼の後ろ姿を見てそして静かに離れた。

                ISO・国際科学技術庁では多くの技術者や博士たちが甲斐甲斐しく働いて日夜研究を
               していた。
                南部もそこの研究者として大きな計画に携わろうとしていた。
                そう、世界を取り巻く不穏な状況をいち早く察知してとある研究をしているのだ。

                南部は研究室で画面越しに何かを見つめていたが、そばにいた若い研究者に目を止
               めると声をかけた。
                「君、以前君の子供が夢中になっていると話していた例の場所だがー」
                「ああ、サーキット場ですか」
                「うん、それはどんな子でも参加できるのかね」
                若い研究者は手を止めずに話した。
                「そうですね、一応年齢に応じたクラスがあって・・最初はとても小さなお子さん
                が入ってきて、マシンに慣れる練習をしてますね。まあ、ほんとに最初は遊びって
                感じですが」
                彼は笑った。
                「うちの坊主はいつも遊んでばかりなので、教官にいつも注意されてますよ。
                ったく、ほんとにやる気があるのやら」
                「そうか」
                「博士、何か気になることでもあるのですか?」
                「いや、訳あって一緒にいる子に見せてやりたいと思ってね」
                「いいじゃないですか」
                彼は微笑んだ。南部は頷いた。


                部屋を除いた南部は、本を熱心に眺めているジョーを見ると、彼に近づいた。
                「ジョー、どうだね。今後の休みに私と出かけないか」
                「どこにいくの?」
                「君が気に入ってくれそうな場所だよ」
                「ふーん・・・あいつも行くの?」
                ”あいつ”とは、彼の少し後にやってきた同い年の少年だ。
                ジョーは彼とはちょっと相性が悪い。
                南部は笑った。
                「ははは。健は留守番だよ」
                「・・いいの?」
                「大丈夫だ、あの子はしっかり者だからな」
                「ふん」
                ジョーはなんだかちょっぴり面白くなさそうだ。
                南部は小さな男の子同士は難しいなあと心の中で思った。


                南部はジョーを連れて教えてもらったサーキット場へ出かけることになった。
                そして見送りにきた家政婦に言った。
                「それでは後は頼むよ」
                「はい、お任せください、博士」
                「健、彼女の言うことを聞いて大人しく待っててくれ」
                「はい」
                ジョーはチラと健を見た。健はすました表情で手を振った。
                「俺の部屋に入るなよ」
                「誰が入るかよ」
                「さ、行こう」
                南部はジョーを急かして歩き出した。

                この日は晴天に恵まれ、まさにレース日和といった感じだった。
                受付で手続きを済ませた2人のところへ担当と思われる男性がやってきた。レーシン
               グスーツを着ている。
                ジョーは思わず彼を見つめた。
                「やあ、君が入所希望の子かい。私は君の担当のジョアンだ。よろしく。君の名
                は?」
                「ジョー。ジョージ・アサクラ」
                「そうか。ジョー、こちらへおいで」
                「博士は?」
                「ああ、一緒に来てた人かい?大丈夫、コーナー近くにいるよ」
                どうやら大人は外で待機のようだ。当然といえば当然だが。
                ジョーはちょっとだけ寂しく感じた。

                南部はジョーの姿が見えなくなると、近くの喫茶店へ入った。
                ここは全面ガラス張りでレースの様子がよく見える。
                彼はホットのコーヒーを注文した。

                ジョーは入所して早速力を発揮した。
                まるでもう何年も扱っってきたかのようにマスターしてしまい、コーナーの中で他
               の車を簡単に抜いてしまうほどのスピードを見せつけてしまった。
                なので、南部は後で担当のジョアンに、経験がおありでは?と聞かれるほどだっ
               た。

                「ジョー、君は本当に初めてだったのかね?」
                「そうだよ。でも、なんか体が動いた。本とかテレビ見てただけで覚えたんだ」

                南部は考えた。
                この子は将来どんでもない大物になるのではないか。
                だとしたらこの才能を活かしてあげるのが大人の私の使命ではないだろうか。

                子供の未知なる可能性について研究のしがいがあると思わず思ってしまう南部だっ
               た。




                             ー 続く ー



                          


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