『 相棒エピソード0 <1>憧憬 』



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              目の前を猛スピードで駆け抜ける車たち。
              カメラは瞬きも惜しそうにその姿を追いかける。

              ジョージは食い入るようにその光景を見つめていた。
              正しくは、テレビジョン画面の映像だが。

              彼の住む島はもとより、本土ではレースがとても盛んだ。
              目鼻の整ったレーサーたちに、際どいコスチュームに身を包んだ女性たち。大勢の観客
             も大騒ぎだ。

              「・・・いいなあ・・」
              ジョージは思わずつぶやいた。彼はレースを見るのが大好きだ。そう、カッコよく疾走
             する車が大好きなのだ。
              自分も大きくなったらレーサーになってこんな車をぶっ飛ばしたい。

              「ははは、ジョージ、また観ているのか?」
              大きな手が頭をくしゅくしゅと掴んだ。ジュゼッペだ。
              「パパ、僕ね、絶対大きくなったら、レーサーになるんだ。そしてね、いつも1位取る
              んだ」
              「ほう、それは頼もしいな。ぜひ賞金を掻っ攫ってくれ」

              時々ジュゼッペはジョージを連れて本物のレースを鑑賞した。
              何事も本物を見ることが大事だ。

              「ジョージは好きなレーサーがいるかい?」
              「うん。ミルコ・フローレンス。」
              「ああ、ミルコか。パパも好きだ。」
              「パパも?」
              「ああ、一番輝いている。」
              ジョージは嬉しそうに笑った。父親と一緒というのがとても嬉しいのだろう。

              ジュゼッペは息子の願いを叶えたいと思った。自分の跡を継ぐのではなく、真っ当な世
             界に送りたい。
              彼は息子には言えない仕事をして世間からも隠れるように過ごしていたが、ジョージの
             笑顔を見ているとそれさえ忘れられる。
              世界的なレーサーになって幸せな人生を送ってくれ。
              父はそう心から願った。


              楽しかった。
              パパと一緒にレースを観て、家に帰るとママがとびっきりおいしいドルチェを作って
             待っている。
              いつもではないが、そんな時が愛おしかった。

              そう、あの日が来るまでは。



                              ー 続く ー





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