『  パパの友達 』










                年中温暖な気候の島の夏は日差しが強い。
                降り注ぐその光を浴びて、街中の建物は白く輝いている。

                観光客のゆく中、走り回っている2人の子供がいた。
                彼らはとにかく器用に大人たちの間をすり抜け、はたまた出店の主人をからかった
                りともうすっかり自分たちの遊び場にしていた。
                と、そんな彼らの前に男たちが立っていたが、よそ見をしていたジョージは彼らに
                ぶつかってしまった。男たちは道を塞ぐように立っていたのでまるでわざとぶつ
                かったかのようにも見えた。
                ジョージとアランは恐る恐る男たちを見上げた。2人の男たちはガタイもよく、ポ
                ケットに手を突っ込み、サングラスをかけた状態で見下ろしている。
                「おい、ガキども、何しやがる」
                アランはとっさにジョージの腕を掴んだ。
                「あー、ごめんなさい!」
                そしてジョージに言った。
                「ジョージ、逃げよう」
                「なんで?」ジョージはアランを見た。「わざと立ってて邪魔したんだよ」
                「何い?」
                アランは慌ててジョージを引っ張り、駆け出した。
                そして後ろも振り向かず、ひたすら走り続け、男たちが追ってこないのを確かめる
                と、ゆっくりと歩いた。
                そして2人はしばらくしてそれぞれ帰途についた。


                ジュゼッペは腕を組み、窓から外を眺めていた。
                そしてドアが開いて男2人が入ってきたが、振り向かずそのままの姿勢で立って
                いた。
                男たちはサングラスを取った。
                「ボス、遅くなりました」
                「どっかのクソガキに手を焼きまして」
                ジュゼッペは鼻で笑った。
                「ふん、子供相手に大の大人がだらしないな」
                「ちょっとばかりしごいてやろうかと思ったんですが、それがすばしっこいやつで
                して・・」
                「子供相手にムキになるな。後々面倒なことになるぞ」
                「はっ」

                と、そこへドアが開いて入ってくる人物があった。
                ジュゼッペは部屋に入ってきたジョージを見た。
                「ただいま〜」
                「おかえり、ジョージ」
                ジュゼッペは抱きついてきたジョージの頭を撫でた。
                「ははは。帰ったらちゃんと手を洗ってうがいをしなさい。ママがおやつを作って
                待っているぞ」
                ジョージはうんと返事をしたが、男達といえばなんとも情けない顔をしてジョージ
                を見ていた。
                「・・・・」
                「あ、兄貴・・・」
                「しっ」
                ジョージは男達の方を向いた。そして目を見張った。
                「あれ?さっきのー」
                「あー!!」男の一人はにこやかな表情で言った。「おぼっちゃまですかー、おか
                えりなさいませ!」
                「さあ、こちらへ。ちゃんと綺麗に手を洗いましょう」
                もう一人もやたら明るい声を出してジョージに言った。
                「手ぐらい自分で洗えるよ」
                ジョージはこう言うと、さっさと洗面所へ向かった。
                男達はハーッと大げさなくらい大きな息を吐いて冷や汗を拭った。
                「ねえ」
                「は、はいっ」
                ジョージは手をちょいちょいと動かし、手招きをした。
                男達は顔を見合わせたが、何食わぬ顔でジョージの方へ向かった。
                ジュゼッペはふふんと笑ってまた外に視線を戻した。

                少し歩いたところでジョージは立ち止まり、2人を見上げた。
                「ねえ、さっき会ったよね」
                すると2人は気をつけの格好をして頭を下げ、恭しくこう言った。
                「先ほどは大変失礼いたしました!」
                「おぼっちゃまとはつゆ知らず、ご無礼をー」
                ジョージは顔をしかめた。
                「ねえ・・どうしてそんな変な言い方すんの?パパのお友達なんでしょ?」
                「ああ・・あー、お友達・・そ、そうなんすよ〜はい」
                「ねえ、サッカーしない?夕方までまだいるでしょ」
                「はい、喜んでお供します!」
                ジョージはやっぱり変なおじさんたち、と彼らを見た。
                ま、いいか。
                2人はそれからジョージの遊びに付き合わせられることになってしまった。
                多分誤算である。


                「あー、もうこんな時間。今日はここら辺でー」
                「遊んでくれなきゃ、パパに言いつけちゃうから!」
                「ひえ〜、それだけはご勘弁を!」
                変な人たち。


                「ねえ、パパ。パパのお友達って変なしゃべり方だね」
                「お友達?・・あ、ああ、そうだね。あいつらは昔からあんな感じなんだ。」
                友達だと思ってくれてればいい。ジュゼッペはジョージの頭を撫でた。



                男達がジュゼッペの部屋を訪れたのはだいぶ夜も遅くなってからだった。
                夕飯が終わってもジョージの遊び相手に付き合わされていたからだ。その本人はも
                うベッドの中だ。
                ジュゼッペは壁にある鏡越しにドア近くで待機している彼らを見て笑った。明らか
                に疲労の跡が見えるからだ。
                「お前たちにはとんだ災難だったな」
                「いえ、災難だなんてとんでも無いことです」
                すると子分の一人が真剣な表情で言った。
                「ボス。素直な可愛らしいお子さんです。・・・で、やっぱりゆくゆくは入れるん
                ですか」
                「・・・・」
                ジュゼッペは口をつぐんだ。
                ギャラクターの者はどうあがいても子孫共々ギャラクターだ。いずれは組織に入れ
                なければならない。皆そうしてきた。
                彼はじっと夜景を見つめた。





                                  ー 完 ー







                                   fiction