『 温泉 』






                    科学忍者隊の5人はブレスレットで呼び出された。
                    なんだろう、正月早々鉄獣でも現れたのか?
                    まったく、敵さんはちっとも休ませてくれないな。
                    そう思った彼らだったが、変身せずそのままで来るようにとのことだった
                    のでとりあえず各々普通の状態のメカでやってきた。

                    博士はまだ会議が終わらないとのことで、5人はISOの広いロビーで待つ
                    事にした。
                    そしてしばらくしてしびれを切らしたように甚平が口を開いた。
                    「ねえ、一体なんだと思う?きっとこりゃあ何かありますよ。」
                    「何かって何よ。」
                    「だってさ、普通にしてこい、って事は秘密の仕事なんだよ。オイラたち
                     を極秘に呼んで、隠密の仕事をさせようって事じゃない?」
                    「甚平はテレビの見過ぎじゃ。」
                    「もう、竜、何だよそんなとぼけた顔しちゃってさ、寝てばかりいたんだ
                     ろ。置いてくからね。」
                    「いいわさ、オラは留守番って決まっとるからの。」
                    「ねえ、健はどう思う?」
                    ジュンは健を見たが、彼はずっと目を閉じて腕を組んだままだ。
                    「・・・寝てんじゃないの?」
                    甚平は思わずぼそっと言ったが、窓際に立っていたジョーが代わりに答え
                    た。
                    「またどっかのお偉いさんの護衛にでも付け、という指令じゃねえのか。
                     前にもよくあったからな。」
                    「ちぇっ、戦えねえのか・・」
                    「いいじゃないの、護衛も立派な任務よ。」
                    「おんや、博士だわ。」
                    竜の言葉にはっとしたように後の4人も前方からやってくる博士を見た。
                    「やあ、諸君。すまない、待たせたね。」
                    「おはようございます、博士。」
                    「いい正月を過ごしてるかね。」
                    「カウントダウンするんだ、と言って夜更かししたものだから寝不足です
                     よ。」
                    博士はいつも以上に健の撥ねてる髪を見て笑いそうになって堪え、軽く咳
                    払いした。
                    「それでは私から君たちにお年玉だ。」
                    「やったあ!」
                    博士は甚平をちらと見てこう続けた。
                    「実はこの国際科学技術庁で新しい温泉施設を造ってね。公害の発生しな
                     い天然の資源を利用した温泉なのだよ。」
                    「素敵だわ〜」
                    「そこに君たちを招待しようと思ってね。ついでに1泊していくといい。
                     旅館の手配もしておいた。ゆっくりしておいで。」
                    「へえ、温泉か。」
                    「・・・俺はいい。」
                    「あれ、ジョー、どうしたの?嫌い?」
                    「いや、そうじゃない・・」
                    博士はああ、という顔をした。
                    「そうそう、言うのを忘れてたよ。そこの温泉は水着着用可だ。だから安
                     心したまえ。」
                    「良かったな。」
                    「なんで裸じゃいやなんじゃい?ジョー、さては腹でも出たかの。」
                    竜はそう言って笑ったが、ジョーは無視した。
                    「そうじゃねえ、慣れてねえだけだ。」
                    「ジョーの国では人前で裸で入る習慣はないんだよ。俺たちと違うん
                     だ。」
                    健がそう言うと、ジュンもほっとしたように言った。
                    「私も良かったわ。水着ならみんなで入れるわ。一人じゃ淋しいもの。」
                    「誰もお姉ちゃんのなんか見たくねえよー。」
                    「言ったわね!」
                    ジュンは甚平が逃げたので追いかけた。
                    みんなは笑って2人を見た。


                    そんなわけで5人は運転手付きのリムジンに送られて海沿いにあるその温
                    泉施設に到着した。
                    彼らは女将らの挨拶を受けた後、仲居に連れられて旅館の中の部屋に案内
                    された。
                    健とジョー、そして竜の3人、ジュンと甚平の2人とそれぞれ相部屋だ。
                    そして落ち着いた頃、5人は大浴場へ向かった。
                    彼ら以外に誰もおらず、広いこの空間は彼らだけのものになった。
                    博士の計らいで、貸し切りになっていたのだが、彼らはそんな事も気に留
                    めず湯に身体を沈めた。
                    ちょっと熱いくらいだったが、日頃の疲れを癒すにはちょうどいい。
                    ジュンは少し遅れて入ったが、こう言った。
                    「最新のを新調して良かったわ。どう?この水着。似合うかしら。」
                    彼女は明らかに目の前の誰かさんに言ったのだが、当の本人はジョーと一
                    緒に外を見ている。
                    「健ったら!!」
                    「ん?なんだ?」
                    「健、ジュンが何か言ってるぞ。」
                    「ねえ、素敵でしょ。」
                    「ああ・・。」健はまた景色を見た。「素敵だぜ、あの山。雪被って真っ
                     白だ。」
                    「山?!」
                     甚平と竜はあちゃーと顔をしてジョーは頭を振ってちょっと離れた。
                    「もうっ、バカ!」
                    ジュンはお湯を健に掛けてぷいっと横を向いた。
                    「何すんだよ、びしょ濡れじゃないか。」
                    「お似合いよっ!」
                    周りはもう呆れて失笑していたが、健は相変わらず何が起きているのか分
                    からずぽかんとしていた。何がそんなに可笑しいのかと思いながら。

                    宿の食事も自然のものや季節のものの食材をふんだんに使った献立だっ
                    た。
                    そして久しぶりの穏やかな時が過ぎ、すっかり心身ともにすっきり・・と
                    思った彼らだったがー。

                    ガガガーっ

                    「な、何だ?」
                    健は目を覚ました。
                    「どこかで鉄獣が?」
                    「・・・おい、健、これだぜ。」
                    健はジョーの声のする方へ向いた。
                    そこには布団も飛ばし、大の字になって大いびきをかいて寝ている竜がい
                    た。
                    「・・凄いいびきだな。」
                    「どうする?これじゃ眠れやしねえ。」
                    健は辺りを見渡した。
                    「あそこへ置こう。」
                    2人は布団に竜を包んで竜を持ち上げ、そのまま入り口へと運んだ。
                    「くそっ、竜の野郎、痩せろって言ってるのにちっとも聞きやしねえ
                     し。」
                    「この正月でまた太ったみたいだな。」
                    「また汗かいちまった。気持ち悪い。」
                    「シャワーでも浴びるか。」
                    「やれやれ。」


                    翌日。5人はISOから来たリムジンで帰途についた。
                    そして1泊であったが、美しい景色の中での素晴らしい温泉や美味しい食
                    事などでゆっくり出来たのがとても楽しい思い出となった。
                    「また来れるといいね、こうしてみんなでさ。」
                    「そうね。久しぶりにのんびりできたわ。」
                    竜は肩を動かした。
                    「変だわ・・・なーんでオラあんなとこで寝てたんじゃろ?」
                    「何だよ、廊下にでも出ちゃったの?」
                    甚平は笑ったが、竜は真面目な顔して首を傾げた。
                    「いんや、起きたら入り口にいたわ。」
                    健とジョーは顔を見合わせた。
                    「竜はよっぽど寝相が悪いんだな。転がっていったか?」
                    「それとも海で泳いでる夢でも見たんじゃねえの?」
                    2人は笑ったが、相変わらず竜は思案顔だった。

                    5人を載せたリムジンは再び町中へと向かい、博士の待つISOへ進んで行っ
                    た。








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