『 新生ジゴキラー発 生!? 』




                ユートランドは今日も大降りの雨に見舞われていた。
                こんな日は出かける人もまばらで、誰一人好き好んで歩く事すら
                しない。
                それはここスナックジュンも例外でなく、いつにも増して閑古鳥
                が鳴く状況であった。
                なのでジュンも甚平もまったくやる気ゼロの顔をして淡々と仕事
                をこなしていた。
                そんな時、甚平はこんな事を言い出した。
                「そういえばさあ、ジゴキラーってこーんな雨の日に出てきたよ
                ねー。」
                「もうっ、ジゴキラーの話はやめてよ。もうこりごりだわ、あん
                な体験。」
                「何言ってんだい。自分から捕まりにいったくせに。オイラたち
                大変だったんだからねー。」
                「はいはい。あー、そうだわ、今度は男の子を懲らしめるタイプ
                がいいわね。女ばっか不公平だわ。」
                「えー、何言ってんの、お姉ちゃん。やだよ、そんなのさ・・」
                「いいじゃない、静かになってせいせいするわ。」
                「ったくう、第一男がいなくなったらお姉ちゃん困るだろ?
                嫁に行けなくなってそのままバアさんだぜ?」
                「うるさいわねっ、余計なお世話よっ」


                「ネナシカズラ?」
                健は博士に繰り返すようにそう尋ねた。隣のジョーは腕を組んだ
                ままじっとしていた。
                「そう、これは寄生植物でこのように延びた蔓の先に吸盤が付い
                ており、それをつかって相手に寄生するのだ。」
                「それはその相手に何か危害を加えたりするのですか?」
                「いや、そのような特性はないようだ。多分、移動したりするの
                に都合のいい方法なのだろう。この習性は何かに利用できるかも
                しれないのだ。まだ入り口だがね。まあそんなわけで一応君たち
                に見せたいと思って呼んだのだ。悪かったね、たまの休みのとこ
                ろ。」
                「いえ、ちょうど暇を持て余してましたから。ではこれで失礼い
                たします。」
                2人は博士の部屋を出て廊下を歩いた。
                「やれやれ、博士が用事だというから何かと思ってきてみたら。
                ただの植物見せられただけとはな。」
                健は笑った。
                「そうだな。ま、雨でどこにも行けないし、暇つぶしにはいいだ
                ろ。」
                「どうすんだ?寄ってくか?」
                「ああ、きっと同じように暇にしてるだろ。」
                健とジョーは、外に出ると、雨から逃げるように横付けにしてあ
                るジョーの車に乗り込んだ。
                そして本降りの中を進み、スナックジュンに到着した。
                車から降りた健は、ん?と足下の違和感を感じ、下を見た。
                「うわっ、何だ、これは!」
                「どうした、健。・・・・あっ」

                カウンターでぼんやりしていた甚平は、あれ?という顔をして振り
                向いた。そしてジュンの方を見た。
                「なあ、お姉ちゃん。なんか、兄貴とジョーの声がしなかった?」
                「ええ?この雨の中?」
                「・・何かさ・・悲鳴みたいだったよ?」
                「・・”ひめい”?」
                2人は入り口に向かい、ジュンはドアを開けた。そして彼らは目を
                パチクリさせてその光景を見つめた。
                健とジョーの足下に蔦のようなものが絡み、2人はそれを懸命に振
                り払おうとしていたのだ。
                「まあ、大変!」
                「わあっ、ジゴキラーだ、お姉ちゃん、ジゴキラーだよ!」
                「ええ〜?だって、ジゴキラーって男の人は襲わないんじゃないの?」
                「でもよー、これって新種なんじゃー」
                「お、おいっ、何でもいいから何とかしてくれよ!」
                「・・くそっ、取れやしねえっ!」
                するとジュンはツンとすましてこう言った。
                「はいはい。分かったわ。」
                そして甚平に向かって手の平をヒラヒラさせた。
                「さ、甚平。どいてなさい。”男の子”は危ないわよ。」
                甚平はぷいっとむくれた。
                「・・ちぇっ。」



                博士の研究室に向かった5人だったが、彼らの話を聞いた博士は笑い
                出した。
                「はははは・・」
                「博士、笑い事じゃありません!」
                「はは・・すまん、すまん。あれは実験中だったのだよ。きっと君
                たちにくっついてそのまま行ってしまったのだね。」
                「博士、いったい何の実験をしているんですか?」とジュン。
                「いや、ちょっとな・・。あれは寄生植物の”ネナシカズラ”という
                植物だ。相手に寄生するためにこのような吸盤がある。」
                甚平はそうっと覗き込んだが、慌ててジュンの後ろに隠れた。
                「うわあ、なんか宇宙人の手みたいだよ、お姉ちゃん。」
                「もう、男の子でしょ、これくらい何なの。」
                「なんでえ、俺たちに絡まっていたのはたまたまってわけかよ。
                焦らせやがって。」
                「あー、オラだけなんで絡まないのかって思ってたけど、これで納得
                したワ。」
                「実はこれの習性を利用し、ギャラクターの基地を探り当てようと考
                えている。それは少し難解な話になるのだがー。」
                博士はそれからスクリーンを下ろして説明し始めた。
                が、健たちは打ち合わせしたかのようにゆっくり後ずさりをし、音を
                立てないようにドアを開け、そっと廊下に出た。
                そして足音を立てないように歩き、しばらくしておしゃべりを始めた。
                「やれやれ、博士の話は長いからな。つき合ってられないよ。」
                「ホントね、しかも植物を見せられても・・」
                「あんなものでうまくいくのかね。どう見ても普通の植物じゃねえか。」
                「博士の事だ、きっとすごい作戦でも考えているんだろう。」
                「ねえねえ、せっかくみんな揃ったんだからさ、どっか行こうよ。」
                「甚平、今日は一日中雨だって言ってたじゃないの。雨の中いやよ。」
                「ちぇ、雨なんか降らなきゃいいのにー」
                「雨だって恩恵を受けている人がいるんだぞ。」
                「そうだ、トレーニングでもするか。今日なら誰もいないはずだ」
                「うえっ、オラはカンベンだー。」
                「竜、いい機会だからダイエットだ。」
                「そうね、いい考えだわ。」
                5人は地下にあるトレーニング室へと向かった。

                そして彼らが小一時間汗を流して出てきた頃には小雨になり、空には
                西日が差して虹が掛かっていた。








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