『 とも だち 』





                 日差しが眩しい狭い路地。
                 そこをジョージとアランは駆け上がって行った。
                 2人はこうして遊び回るのが日常になっていた。
                 行く先々では暑い日差しを避けるように木々の下で
                 人々がお喋りをしている。
                 時々グラニータを美味しそうに頬張っている人がいたが、
                 2人は手持ちがなかったので羨ましそうに横目で見ながら
                 歩き続けた。

                 やがて町の散策をして疲れたのか、アランはこう言った。
                 「ジョージ、僕のうちに来ない?もうすぐおやつの時間だ。」
                 「うん。」
                 2人は駆けて来た道をまた走り出した。
                 アランの家はちょっと外れたところにあった。
                 周りは牧草地が広がっていて、遠くで牛の鳴き声が聞こえる。
                 アランはドアを勢い良く開けた。
                 「ただいま。」
                 「お帰り、アラン。」
                 奥から母親の声がした。
                 「ジョージと一緒だけど・・いい?」
                 「そう、いいわよ。いらっしゃい、ジョージ。」
                 「こんにちは。」
                 母親はにこっと笑った。
                 「ちょうど良かったわ。出来上がる頃よ。手を洗って待ってて。」
                 「うん。」
                 2人は洗面所に向かった。
                 アランの母親もまた料理好きでこうして遊びに来た時にはいつも
                 美味しい菓子を作ってくれる。カテリーナもよく好きなものを
                 作ってくれたが、そんなに家にいることがないため、アランの
                 母親の方の味に馴染んでいた。
                 「はい、どうぞ。」
                 差し出されたお菓子を見て2人は思わず身を乗り出した。
                 それはクリーム状のようなものが固い生地にくるまれた形をして
                 いた。
                 「”カンノーリ”」というのよ。」

                 ”カンノーリ”(または”カンノーロ”)は、元々感謝祭のお菓子で、
                 今は年中お店でも見られ、家でも作られるドルチェだ。
                 小麦粉やお砂糖、バターなどで作った生地を「カンノーリ型」と
                 呼ばれる道具に巻き付き、リコッタクリームや飾り用のドライ
                 フルーツ・ドレンチェリーを入れた甘いお菓子である。*

                 「・・”カンノーリ”・・?」
                 「そうか、あなたたちはまだお目にかかってなかったかしら。
                 でも、ジョージは知っていると思ったわ。カテリーナはこういうの
                 得意だから。」
                 カテリーナは確かにジョージのためにいろいろなお菓子などを作っ
                 てくれた。しかし仕事の関係で遅くなったりしている事が多かった
                 ため、あまり多くない。
                 しかし子供は実にゲンキンだ。目の前の綺麗なお菓子に手を伸ばし
                 美味しそうに頬張った。
                 母親はそんな彼らを微笑んで見つめた。
                 しかし彼女は一方でジョージを複雑な表情で見守っていた。
                 彼の両親についての悪い噂を夫がどこかから聞いて来て話していた
                 からだ。
                 そんなの嘘よ、と彼女はあの時かわしたのだが・・。
                 おやつが終わり、部屋に向かおうとするアランを彼女は呼び止めた。
                 アランはジョージを先に行かせて母親のところに来た。
                 「なあに、ママ。」
                 彼女はしゃがみ、彼を見つめた。
                 「アラン、あの子のご両親はお仕事が忙しくてなかなかお家に帰れ
                 なくていつも一人なの。」
                 「うん、知ってるよ。」
                 「あなたは少しだけお兄さんだから、あの子の面倒をしっかりみて
                 あげてね。」
                 「分かってるよ、ママ。」
                 アランはにこっとした。母親は微笑んで、立ち上がった。
                 部屋に戻ると、ジョージはこう言った。
                 「何やったの、アラン。ママに怒られたんでしょ。」
                 「ふんっ、お前とは違うよ。」

                 2人はまた外へ飛び出した。先ほどとは違って日差しは和らいでいた。
                 彼らは坂道を上がり、海の見える丘に出た。
                 ここからは水平線が見渡せる。遠くは少しかすみ、高速船が横切って
                 いくのが見えた。
                 2人は何も言わず、太陽の日差しを浴びてキラキラ輝く海の上をしば
                 らく見つめた。
                 「また遊ぼうね、アラン。」
                 「うん。また僕のうちで遊ぼう。」
                 「ずっとずうと友達だよ。」
                 「うん、ずっと一緒だよ。」

                 そして2人は小道を駆けて行った。



                 *旅先のレストランで出ましたが、かなり甘いので苦戦。まるで砂糖の
                  塊のようでした。







 

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