『 黄色の便り 』
「あら・・これは」
カテリーナは足を止めた。
ドアの足元に黄色い小さな花が集まった花束が置かれていたのだ。
カテリーナは屈んでそれを手にした。
そして鼻を近づけて目を閉じた。
「いい香りね」
でも・・と彼女はそっと周りを伺った。
そして素早くドアを開けて中へ入った。
カテリーナはそのまま花束を鏡台の前に置くと、窓に近づいてカーテンを少しだけ開
けた。
向かいには同じような建物がある。彼女はある部屋の窓を見つめた。
「今日も行ってるのね」
その建物は男性のみがいるエリアだ。そしてカテリーナが見ていた部屋はジュゼッペ
の部屋だった。
彼はここ数日何かの任務が課せられて出かけることが多い。
まあ仕方ないことだ。彼女はもちろん彼も最高幹部として色々と重要な責務を任され
ている。
カテリーナだって部下の教育を任されて息もつかないくらいだ。
最近彼女はこの仕事に疑問を持ち始めていた。
ヒラの時は何も思わず、ひたすらカッツェらに忠誠を誓っていたのだが、幹部とな
り、上層部と接するようになった今では、彼らのすることに次第に恐怖を感じるよう
になった。
カテリーナは花束を手にした。そしてリボンを解くと、落ちてきた紙をごく普通のよ
うに拾って広げた。
『俺は絶対にやり遂げる。君も協力してくれ。親子3人で普通の人間としての生活を
しよう』
カテリーナとジュゼッペはここから抜けようと考えていた。
こんな非人道な組織から身を引くべきだ。でないと、自分達がおかしくなってしま
う。
「だけど・・・」
カテリーナは花を小瓶にいけた。
「あんなところにおいて、誰かに見つかったらどうするつもりだったのかしら」
彼女はふふと笑った。
そう、ここから出られれば彼と小さな彼の子と幸せに暮らせるのだわ。
誰からも邪魔されずに。
そんな彼女の思いに同意するように黄色いミモザは優しく香った。