『記憶の彼 方』



               健とジョーはISOの長い廊下を何も言わずに歩いていた。
               彼らはたった今、マリーンサタン号から帰還したばかりだった。
               彼らが口も聞かずにいるのはその疲れから来るものだとはたから
               見ると思うところだが、この2人は違っていた。

               健は立ち止まって振り向き、そしてジョーを見てこう言った。
               「ジョー、すまなかった。俺はー」
               「いいって、健。もうよそうぜ。」
               「いや、言わせてくれ。・・・・任務とは直接関係ない事でお前
               を苦しめてしまった。思い出したくない事まで明らかにする必要
               もなかった。」
               「でもそのおかげで、光を克服出来たんだ、どっちみち思い出さ
               ざるを得ない事さ。」
               「・・・・・。」
               「気にするな、健。俺はそんな事でダメになるようなタマじゃね
               えよ。」
               2人は南部博士のところへ行って改めて調査結果を報告した。
               博士は彼らに労いの言葉をかけ、ゆっくり休むよう言った。
               2人は部屋を出て、そして別れた。


               ジョーはその日の夜、ベッドの上で横になった状態で考え事を
               していた。
               健と共に海底を調査した際に思い出した”あの忌まわしい過去”
               だ。
               彼は遠い子供の頃を思い出した。ある子供が彼の両親について
               悪い事をしているという噂を話した事だ。

               あの後両親に聞いても何もしてないと言われ、そのままになっ
               ていたが、多分その悪い事と言うのは、ギャラクターの元で働き
               悪事の仕事をさせられていた事であろう。
               彼らはジョーに本当の事を言えなかったのだ。
               もっとも、ギャラクターなんていう組織はまだ8歳そこそこの
               子供に分かる筈もない。

               だけどなぜそのような事実が他の子に分かってしまったのだろ
               う?誰かが通報したのだろうか。その子の親が知ってたと言う事
               か。

               それよりもー。
               「なせ、親父とお袋は、ギャラクターなんかに入ったんだ。」
               ジョーは思わず声に出して言った。

               思い出すのは、微かではあるが優しい両親の笑顔だった。
               父はいつも遊んでくれたし、母は彼のためにデザートを作り、
               膝の上で本を読んでくれた。
               そんな両親が、あのような恐ろしい組織に入っていたなんて信
               じたくない。
               何かの間違いであって欲しい。
               彼はそう願わずにはいられなかった。

               (・・・今度、墓参りに行ってこよう。何か分かるかもしれない)
               ジョーはBC島にある両親の墓に行くのは初めてだった。多分、
               行ったとしても彼らは眠っているので彼の疑問に答えてくれる筈
               はない。
               しかし、彼は何だか無性に両親に会いたくなった。たとえ何も
               言わなくても、彼らに自分の想いをぶつけたい、と思った。


               そしてジョーは誰にも言わず、こっそりと日本を立ったのであ
               る。



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