『 追憶
』
さあ、みんなで乾杯しよう。
ここにはお前はいないけど、俺たちはいつも一緒だ。
様々な思い出が駆け巡る。
誰もが心に傷を持ち、それを思い出に変える。
みんな若くてずっとみんなで一緒だと思ってた。
それなのにさ。
お前と出会ったのはまだ子供だった。
ちょっと生意気そうな外国人の子ー。
そんな印象だった。
慣れない国で不安だったろう。
言葉も習慣もまるで違う。
きっと苦労しただろうね。
お前の気性の激しさとわがままな性格にはほとほと
辟易したが、根は優しく明るかった。
意見の相違もあったが、俺はいい仲間として付き合えて
嬉しかったよ。
ねえ、もうちょっとそのワインちょうだい。
彼の故郷のでしょ。もっといただきたいわ。
あの時のあなたの言葉に押されて私は幸せをつかんだわ
・・と言いたいけど、現実は甘くないわね。
ねえ聞いて。
彼ってば、本当にお金に無頓着で贅沢しようとするから
全部私が管理することにしたわ。
本当にトンチキなんだら。
あ・・お料理は・・まだまだかな・・。
またあなたに教えてほしかったわ。
あなたは喧嘩っ早くて怖い感じもしたけど、
私のこと影では支えてくれてたのよね。
あなたに打たれたのはちょっとびっくりしたけど
でもあれは仕事のこともあったけど、私を思ってのこと
だったのよね。
あなたに出会えてよかったわ。
心から。乾杯。
おいら、やっと兄貴たちと酒が飲める歳になったのに
誰かさんはいなんだからなあ。
ジョーの兄貴はずるいよ。きっと上からおいらたちのこと
笑って見てんだろ。相変わらずバカだなあって。
楽しかったよ。
結構一緒に組んで戦ったことあったよね。
兄貴の思惑がどうかわからないけど。
でも、兄貴のことで相談に乗ってくれたこともあったよね。
思い出すと悲しくなるけど、前を向かなきゃね。
本当にお前は生意気なやつだと思っとったけど
芯は通っていたよな。
自己中心だと思ったら、意外に優しかったり
わけわからんやつだったわ。
おらと組んだ時、本当はどう思ってたんかいのお。
邪魔くさいとか考えてたかも知れん。
でも、懸命に助けてくれたし、お前と冗談言えたのも
実は楽しかった。
へへ、おらもあまり素直じゃないかもしれんの。
もっと一緒に居たかったぞい。
あの時言った、一発殴らせろというのは半分本音だ。
お前にはたくさん殴られたからな。
でも
お前ともっと居たら、今まで以上に分かり合えたかもなあ。
思い出が蘇ると、お前のことが頭に浮かんで
心に穴が空いた気分になる。
でも今は乾杯しよう。
ここにお前は居ないけど・・・
ー 完 ー
(あとがき)
この話を書く際にインスピレーションされた曲をご紹介します。
日本語字幕なので、どうぞよろしかったらご覧ください。
こちらは、亡きマネージャーに捧げた歌です。
ヴォーカルのアダム曰く「大事な人を亡くしたすべての人へ・・」
「Maroon 5 ー Memories」