『 長 い一日 』




                  今日もとてもいい天気だ。
                  朝日が地上を照らし、建物も輝いている。
                  この辺りの建物の壁は白や薄黄など明るい色を使っているので
                  余計に光が当たって眩しい。
                  ジョージはそのまま上がって行った。この上には広い場所が
                  あって、眼下には海が見渡せる。彼はその光景が好きだった。

                  「おはよう、ジョージ。」
                  「今日はえらく嬉しそうだね。」
                  町行く人々がそう声を掛ける。
                  「おはよう。」
                  ここの人たちはジョージや他の子供たちにも声を掛けてくれる。
                  それは顔見知りという事もあるが挨拶は人間関係を円滑にする
                  にはとても大切だと考えているのだ。

                  ジョージはふと横道を見た。彼はこういった場所も好きだ。
                  細長い階段が遥か遠くまで続いている。この先は一体何がある
                  のだろうと想像をかき立ててワクワクする。
                  ジョージは中へ入った。
                  階段の両脇には家々のものであろう、綺麗なお花が植えられた
                  鉢が置いてある。ジョージはそれを難なく避けて上に駆け
                  上がった。

                  「何時頃帰ってくるかな。」
                  ジョージは呟いた。
                  数日前に彼のもとに両親から手紙が届いていた。予定では今日
                  帰ってくる。いつも彼らはそうやって知らせてくれるのだ。
                  彼は上りきると、広場を突っ切った。
                  そして柵に掴まって身を乗り出した。
                  大きく広い真っ青な海。それは遠くどこまでも続いている。
                  「・・・ここを泳いで行ったら、どこへ着くのかな。」
                  そして彼はこう続けた。
                  「パパとママのいるところは遠いのかな。」
                  両親は彼には自分たちは島じゃなく他の遠い国に仕事で行って
                  いるんだと言い聞かせていた。島以外、と言ったのは、恐らく
                  彼が探さないようにするためだろう。
                  もう少し大きくなって賢さが加わったなら、両親はなぜ自分に
                  内緒にしているのか疑問に思う事だろう。

                  どこまでも真っ青な海にはポツンポツンと白い小舟が浮かんで
                  いる。砂浜にはところどころに人がいて海水浴を楽しんでいる
                  ようだ。
                  ジョージはそんな光景を見ているうちに自分もそこへ行きたく
                  なった。
                  彼は今来た道を戻り、浜辺まで降りた。
                  この島には3つの港がある。どこに船が来るか分からないが、
                  ここの浜辺はジョージのお気に入りで、両親も知っている。
                  だからもしかしたら会えるかもしれない。
                  彼はそう考えたのだ。


                  夕刻になって空が赤く染まってきた。
                  いつの間にか砂浜には誰もいなくなってジョージ一人になって
                  しまった。
                  彼はため息をついた。ここには来ないのかな。それとももう
                  家に帰ってきてるのかも。


                  誰もいない砂浜を男女が歩いてきた。そしてしばらく近づいて
                  来たところで立ち止まった。
                  「・・・随分待たせてしまったようだな。」
                  ジュゼッペはそう言って笑った。
                  砂のトンネルを作っている途中で眠ってしまったのだろう、
                  ジョージが横たわって寝息を立てていた。
                  「良く眠っているわ。」
                  両親は夕日を浴びてオレンジに染まった海を見つめた。
                  「さ、帰ろう。ここで一夜を過ごすのも悪くないがな。」
                  そう言ってジュゼッペはジョージを抱き上げた。カテリーナ
                  は彼の靴を持ち、2人は歩き出した。

                  そして親子がそこを離れてしばらくすると、空には一番星が瞬き
                  始めた。









                               fiction