『  血筋 』








               木々の間を尋常ないスピードで駆け抜ける影があった。
               そして足を止め、何かを投げつけた。
               「まだまだね」
               カテリーナはそう呟くと枝を軽々と登り、その投げたものを幹から抜いた。
               そして辺りを見渡すと、はるか遠くの方に視線を固定させるとまた投げた。
               「ママ〜!」
               カテリーナは下を見下ろした。ジョージが駆けてくる。
               「そこで何してるの?」
               彼女はちょっと微笑んだが、ハッとした。先ほど投げたものが何とジョージめがけて
               飛んでいたからだ。
               「ジョージ!」
               カテリーナは青ざめ、木から飛び降りると駆け出した。
               ジョージはぽかんとして立ち止まったが、目の前の自分に向かって飛んでくるものを
               見るとキッと鋭い目つきになり、手を差し出してそれをしっかり掴んだ。
               カテリーナはジョージを抱きしめた。
               「ジョージ・・」
               ジョージはカテリーナが離れると、手にしたものを渡した。
               「ママ、お花投げちゃだめだよ。可哀想でしょ?」
               「あ、ああ、そうね・・そうよね」
               カテリーナは金属製のそれを見つめた。それは「薔薇爆弾」という彼女たちデブルス
               ターの武器のひとつだ。むろん、扱いを間違えるとその場で暴発する。
               「ねえ、ママ」
               「え?」
               「それ、僕も投げていい?」
               カテリーナはかぶりを振った。
               「だめよ、子供のおもちゃじゃないの」
               「投げてみた〜い〜」
               ジョージはカテリーナの服を掴んでせがんだ。
               「ジョージ」
               しかしジョージはすっと隙を見て彼女の手から奪い取り、どこかめがけて投げてし
               まった。
               「あっ・・」
               それは木のてっぺんまで届き、木の枝を折って下へ落ちた。
               「うわあい、ママ、あんな上まで届いたよ!」
               カテリーナはじっと枝が突き刺さった薔薇爆弾を見つめた。
               「・・・・(なんて正確な技なの・・起爆装置外しておいてよかったわ)」
               薔薇爆弾は蕾状態であった。それを花開かせると起爆装置が働き、衝撃を受けると爆
               発する仕組みである。
               ジョージは新しいおもちゃが手に入ったかのように嬉しそうだ。それを手にしてまだ
               投げた。
               カテリーナはその正確さに感心したが、不安げな表情で無邪気に自分を呼ぶ息子に力
               なく微笑んだ。


               ジョージが寝静まった頃、1階の居間ではジュゼッペとカテリーナの2人がソファで
               テレビを見ていた。が、2人の目には画面は映っていない感じでぼんやりしていた。
               昼間の出来事をカテリーナから聞いてジュゼッペも黙っていたのだ。
               「・・・あいつにはやっぱり俺たちの血がしっかり入っているということか」
               「・・・・」
               「上の方がジョージを狙ってきている。時間がないかもしれない」
               カテリーナは俯いた。
               ジュゼッペは黙って彼女を見つめたが、カテリーナはすくっと立ち上がって暖炉の上
               のある写真立てを手にした。そこには生まれたばかりのジョージを抱いて微笑む彼女
               と彼女を支えるジュゼッペが写っていた。
               カテリーナはじっと見つめていたが、やがてこう言った。
               「・・・いつかはこの子も事実を知ってしまうのかしら。そして私たちを軽蔑するの
                かしら」
               「それともー」
               彼女はジュゼッペを見た。
               「同じように手を血で染めるようになるのか」
               「・・・・」
               「あいつは俺たちの血を受け継いでいるからな・・」

               2人は幹部として働く身として組織内の色々な仕組みを知っていた。知っている限り
               他の幹部は自分の子をギャラクターの戦闘員として養成するところへ送り出してい
               る。しかもそれは彼らの意思ではなく全て上からの指令である。そして子らは何も知
               らず洗脳されて悪事と知らず言われた仕事を命をかけてこなすのだ。

               ある日、ジュゼッペは拳銃を手にすると、庭で蝶を追って駆け回っているジョージの
               元へやってきた。
               ジョージは彼に気付かないのか、相変わらず蝶を追いかけていたが、あ、と言って立
               ち止まった。
               蝶が蜘蛛の巣にかかってしまったのだ。ジュゼッペは何も言わずだた見ていたが、
               ジョージは彼の方を向くと、その手を見た。
               「パパ、それ貸して」
               「・・えっ?」
               しかし彼が何を言われているのか理解する前にジョージは拳銃を奪うように取り、蜘
               蛛の巣めがけて撃った。
               それはちょうど上下に分かれるように糸を切り、蝶が絡んでいた部分が地面に落ち
               た。
               「はい」
               ジョージは拳銃をジュゼッペに返すと、糸が落ちた場所に行き、しゃがんで解き、蝶
               を逃した。そして飛びだった蝶を見て満足そうに言った。
               「蜘蛛さんはかわいそうだけど、蝶さんは助かったよ。ね、パパ」
               「・・あ、ああ・・」彼はジョージを見下ろした。「そうだな・・ジョージ・・いつ
                の間にこれを覚えたんだ」
               「わかんない」
               「・・・・」
               ジュゼッペはじっと息子を見つめた。彼は糸を出して巣を作り直している蜘蛛を見て
               いる。
               多分ジョージは自分が撃っているのをどこかで見ていたのだろう。なるべく彼には気
               付かれないようにしてたつもりだったのだが。
               カテリーナも訓練中を発見されてしまった。両親の血を受け継いでいるのならその腕
               にきっとギャラクターは目をつけるだろう。
               (ジョージ。その腕は、決して悪事に使ってはいけない。悪事から人々を救うために
                使うんだ。それが・・お前が生きる道だ。・・俺たちの子として生まれた運命とし
                て)
               ジュゼッペは拳銃を懐にしまった。教えるまでもなかったな。
               彼はなんとも言えない思いで彼を連れて家へ戻った。







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