『  親子 』




                 「博士、ここにおられたか」
                  南部博士は背後での突然の声に振り向き、軽く会釈をした。
                 「これはアンダーソン長官」
                 「どうかされましたか?」
                 「は、どうもしませんが。どうして」
                 「じっと何かをご覧になったまま動かないので。声を何度かおかけしても聞こえ
                 ないようなので心配しましたよ」
                 博士はああ、という顔をした。
                 「それは失礼いたしました。手紙を読んでたのもので」
                 「ほう、手紙ですか」
                 「ええ、子供達からです」
                 「子供達?」
                 アンダーソンは怪訝な顔をした。
                 はて、博士は独り身のはず。子供はいないと思うが。いや、それは前向きで実
                 は・・。まさか、隠し子?
                 「ええ、私のところにいる子供達ですよ」
                 アンダーソンは合点した。そういえば、身寄りのない孤児を引き取ったとか言っ
                 てたっけ。
                 「その子たちが手紙をくれたのですか」
                 「そうです。ご覧になりますか」
                 人様のものを読むのは・・と考えたが、アンダーソンは博士の差し出した手紙を
                 受け取った。

                 『博士。毎日お仕事お疲れ様。どんなに疲れていても僕たちと遊んでくれてあり
                 がとう。休みの日は一緒に遊びたいけど、無理しないでゆっくりしてね。おば
                 ちゃんと一緒にいるから。
                 今日は休みじゃなくて残念だな。きっといい子にしてるから安心してね。
                 じゃあね、博士。・・・ううん、僕たちのお父さん』

                 「”お父さん”ですか。いいですなあ。博士はいっぺんに男の子2人の父親になっ
                 て大変だ」
                 博士は口角を少しあげた。
                 「まあ、そうですな」
                 博士は外を眺めた。
                 これはどちらが書いたものだろう。真面目な文章からして健かな。
                 ジョーに書け、と言われたかな。
                 いや、案外ジョーかもしれないな。急に日本語が上手くなったから自慢したかっ
                 たかもしれない。

                 アンダーソンも隣で大きな窓から外を眺めていた。
                 「もうこんな時間ですな」
                 「ええ」
                 「会議もないようだし、私はこれで失礼するよ」
                 「ええ、それでは私も失礼します」
                 「そうしてください、博士。このところ会議続きでしたから。早く帰ってあげて
                 ください」
                 長官はそういうと立ち去った。
                 博士は長官の背中に軽くお辞儀をした。
                 そして手紙を大事そうにしまい、反対側に歩き出した。





                             ー  完  ー



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