『 遠い約束 』






                  辺りに銃声が響いた。
                  それが1発だったか2発だったか定かではない。
                  そしてそれと同時に自分の名を呼ぶ声がした。
                  両親の声だ。
                  「・・・・!」
                  ジョージは顔を上げて無我夢中で駆け出した。
                  彼は立ち止まった。
                  目の前に両親はいたが、彼らはテーブルに伏っして
                  身動き一つしていなかった。
                  まだ8歳という幼いジョージだったが、状況は読めていた。
                  両親は死んでいる。
                  そしてその原因はー。
                  彼は振り向いて、一人の仮面を被った女が立っているのを見た。
                  あの女が撃ったんだ。腰にライフルが見える。
                  彼はとっさに父親の握っていた拳銃を手にした。
                  まだ暖かい。
                  彼は構えた。彼は弾の位置を確認し移動させた。
                  これは父・ジュゼッペから仕込まれたため自然と身に
                  ついた本能だった。
                  女は笑っている。手にしている薔薇をゆっくりと動かし
                  ながらじっと彼を見下ろしている。
                  「そうだよ、坊や・・・もっとこっちへおいで。・・・
                   一人じゃ淋しいだろう・・」
                  女はふっと手にしていた薔薇をジョージの目の前に放り投げた。
                  ジョージはそんなものは目に入っていない。いや、
                  見たがただの薔薇だと思ったからそのまま無視して進んだ。
                  とそんな時だ。

                  バーン!

                  「ああっ!」
                  薔薇が爆発し、ジョージの小さな身体は宙に浮いた。
                  彼はそのまま砂地に叩き付けられた。
                  痛い。激しい痛みが全身を駆け回り、意識が朦朧としてきた。

                  僕は死ぬのかな・・嫌だ、怖い・・
                  でも・・パパとママと一緒にいられるなら・・いいや・・

                  ジョージは一瞬だけ光を見た気がしてそのまま目を閉じた。


                  「子供も死んでるみたいだ。息してない。」
                  「・・可哀想に・・・」
                  「この辺も物騒になったな。」


                  アランは窓から外を眺めていた。何だか人々がせわしなく走って
                  いて騒がしい。
                  そんな彼の耳に両親の声が聞こえてきた。
                  「・・・何ですって!ジュゼッペとカテリーナが殺された?」
                  「・・・・」
                  アランはそっと2人のいる部屋を覗いた。
                  「例の連中の仕業だろう。姿を見せないと思ったら・・」
                  「・・で・・あの子は・・?」
                  「巻き込まれて重傷だったところを誰かが病院へ連れて行った
                   らしいがー」
                  父親はそこで息をのんだが、重々しく続けた。
                  「・・・息を引き取ったそうだよ。」
                  すると同時にバーンを何かを叩く音がして2人は驚いてその方角
                  を見た。
                  アランがドアを開けたまま外へ飛び出して行くのが見え、母親は
                  思わず追いかけようとした。
                  「アラン!ダメよ、行っちゃー」
                  しかしもうアランの姿は見えなくなってしまい、彼らは立ち尽くし
                  てしまった。


                  アランは石畳の続く小道をひたすら走り続けた。
                  ここはいつもジョージと走って遊んだ道だ。こうして走っていると
                  どこからか彼がひょっこり顔を出してきそうな気がした。
                  アランは心のどこかにこれは悪い冗談できっとどこかからジョージが
                  人懐っこい顔で話しかけてくると思っていた。
                  彼は小道を上がり、海の見える広場にやってきた。
                  そしてそこから階段で駆け下り、砂浜に降りた。
                  あの事件が起きたのはここから少ししたところだ。
                  波は相変わらず静かに打ち返している。
                  アランはじっと海を見つめた。
                  そしてジョージとの会話を思い出していた。
                  「ジョージ、僕たち約束したよね、”ずっと友達だ”って。
                   死んだなんて嘘でしょ。約束破るのはよくないってママがいつも
                   言っていたよ。
                   ・・・きっとパパたちと遠くへ行っただけだよね。
                   また戻ってくるよね。」
                  アランは手の甲で目をこすった。
                  「待っているよ、いつまでも。たとえ大きくなっても、おじいさん
                   になってもずっと・・」

                  アランはいつまでも立っていた。両親が迎えに来てもしばらく動かずに
                  いたが、やがて母親に支えられて彼らはゆっくり歩き出した。
   




                  (あとがき)
                  今日(9月29日)はジョーの命日という事で記念フィクを描きました。
                  が、これはジョーではなくて「ジョージの」命日というちょっと変化球
                  で行きました。きっとみなさんは正統派でいくでしょうから、私はこん
                  なのもアリでは、と。
                  ジョージの日は分かりませんし、死んだかどうかも分かりませんが・・。









                                fiction