『 仔猫の冒険 』



              とある日の午後。外は風が柔らかく吹いて心地よい。
              ジョーは足を止めて、ベッドサイドを目だけ動かして見渡した。
              そしてこう言った。
              「・・・・あいつ・・どこへ行ったんだ?さっきまでこの上にいたのに。
              ・・・・またあそこか?」
              ジョーはカップをサイドテーブルに置いて開いているドアから外へ出た。
              彼がトレーラーハウスに接続してある車に近づいていくと、その下から
              のそのそと仔猫が出て来てジョーの足下にじゃれ始めた。
              ジョーは笑ってしゃがんだ。そして仔猫を撫でた。
              「ルナは本当にこいつが好きなんだな。」
              彼は彼に登ろうとする彼女を手で抱き上げた。
              「わかったよ、また一緒に行くか。」
              仔猫はにゃあと鳴いた。そしてまるで返事をするかのようにすりすりと甘えて
              きた。
              ルナはジョーの車がお気に入りで、乗り込んで一緒にドライブに行くのが好き
              のようだった。
              ジョーはルナを毛布に包み、後部座席に置いた。
              彼はエンジンを掛け、そして出発した。いつもの一人と一匹ののんびりした
              ドライブになりそうだ。
              彼はどこか広い草原のような場所に行き、そこでルナを遊ばせてやろうと考え
              ていた。トレーラーハウスじゃ行く場所は限られるし、かといって森の中は何
              があるかわからない。たまにはのびのびとするのもいいだろう。

              そんな事を考えていつものように車を走らせている時だった。
              突然、ブレスレットが鳴り、博士の声が聞こえた。
              『B地点に鉄獣が現れた。科学忍者隊の諸君は直ちに合体を済ませ、現地に
              向かってくれたまえ。』
              「G−2号、ラジャー!」
              ジョーは、ったく、こんな時にと呟いた。
              「バード・ゴー!」
              車はレーシングカーに変身し、加速した。
              が、ジョーはブレーキを掛けた。G−2号機はキーッと音を立てて止まった。
              「・・・ちょっと待て。」
              ジョーはハンドルを持ったまましばらく考えた。
              確か、後ろにはルナがいたんだよな。まさか、変身してしまったのでは。
              虎とか豹とかいや、それよりもっと凶暴な猛獣に変身してたらどうしよう?
              とか色々な考えが頭を巡ったが、彼は意を決してそうっと椅子の陰から覗き
              込んだ。
              毛布は下にあったが、モゾモゾと動きだし、ルナが相変わらずの仔猫のままで
              ちょこっと顔を出し、にゃあと小さく鳴いた。
              ジョーはほっとして大きく息を吐いた。
              「・・・何だよ・・。」
              ルナはそんなジョーの心配をよそに、彼の顔を見上げて嬉しそうに歩いて来て
              彼の太ももの上に這い上がって来た。
              「・・・ったく、甘えん坊だぜ、おめえは。」
              ジョーはルナを優しく撫でた。

              やがてG−1号機、3号機、4号機、そしてゴッドフェニックスもやってきて
              彼らは合体した。
              ジョーは中に入ると、ルナに言った。
              「ここで大人しくして待ってろよ。なあに、すぐ片付けて戻って来るからな。
              いいな、出て来ちゃダメだぞ。」
              ルナは少し寂しそうな表情でジョーを見上げていた。彼はポンポンと仔猫の
              額を優しく叩いて出て行った。


              ゴッドフェニックスの前方にその鉄獣の姿があった。彼らは敵の周りを旋回
              したり動きを観察していたが、やがて鉄獣は彼らに向かって迫って来た。
              相手はゴッドフェニックスに近づくと、頭部から触角のようなものを伸ばし、
              ゴッドフェニックスを叩き落とそうとし始めた。
              「あれを避けるんだ!」
              「ラジャー!」
              ゴッドフェニックスはそれを避け、上空へ舞い上がろうとしたが、触角が絡
              まり、捕まってしまった。
              「うわああ〜っ!」
              「きゃあっ」
              「・・・竜、何とか振り切るんだ!」
              「わ、分かってるっ!」
              しかしどんなにもがいてもなかなか離してくれない。
              彼らはレバーを引いて脱出を試みたが、埒があかなかった。
              「・・・くそっ、ちっとも動けない。」
              「うわ〜っ、兄貴〜、壊れるよ〜っ」
              「キャー!」
              「・・・仕方ない。火の鳥で脱出するぞ!」
              「よ、よしっ」
              「まてっ、火の鳥はダメだ!」
              「・・・ジョー?」
              「どうしたん?」
              「どうした、ジョー。」
              「い、いや、その・・・」
              じっと健はジョーを見つめていたが、やがてこう言った。
              「・・わかったよ、ジョー。何とか他の方法でやってみよう。」
              「健、鉄獣の様子が何だか変だわ。」
              ジュンがそう言ったので前を見ると、鉄獣の中から煙が出ているのが見えた。
              きっと中で何かが起きたのだろう。
              「よし、今だ。パワーアップ・ゴー!」
              健、竜、ジョーの3人はレバーを力一杯引いた。絡み付いていた触角が解ける
              と、ゴッドフェニックスは空を大きく舞った。
              「今だ、バードミサイルを撃ち込むんだ。」
              「ラジャー!」
              バードミサイルが数発鉄獣に撃ち込まれた。そしてそれは大きな爆音と共に大
              破し、粉々に散った。
              彼らは安堵して互いに顔を見合わせた。しかしなぜ急に鉄獣がおかしくなった
              のだろう。
              前方の煙の中を後ろからやって来た3機の深紅の機体が飛んで行った。
              健はじっとそれを見つめた。
              (・・レッド・インパルス・・?・・・そうか、それで)


              そして彼らは三日月基地へと帰還した。
              G−2号機に近づいたジョーはドアを開けた。中からルナが飛び出して来て彼の
              足下にじゃれついた。
              「・・・そう言う事だったのか。」
              ジョーは振り向いた。
              「・・健。」
              「良かった、体の具合でも悪いのかと思ったよ。」
              「・・すまん。」
              「まあ、可愛い。その子がルナちゃんね?」
              「ひゃあ、ちっこいなあ。」
              ジョーがルナを抱き上げると、彼女は彼の胸元で甘えるようにすり寄って来
              た。
              それを見たジュンはこう言った。
              「まー、何だか妬けちゃうわね。」
              「でも、兄貴じゃなくて良かったじゃねえか、お姉ちゃん。」
              「こら、甚平!」
              「?何で俺じゃなくて良かったんだ?」
              「もうっ!」
              「それより博士のところへ行こう。」
              甚平はジョーのところに来てそっとこう言った。
              「隠してた方がいいじゃない?博士に怒られちまうぜ?」
              「一人にさせられねえよ。いいさ、慣れてる。」
              「ジョーの兄貴、すっかり人間扱いしてら。」
              「大丈夫よ。今日は立派な一員ですもの。ね?」
              ジュンは最後はルナに話しかけるように言った。ルナはにゃあと鳴いた。
              5人は、いや5人と1匹は博士の待つ部屋へ向かった。


              トレーラーハウスに戻ったルナは色々な事がありすぎて疲れたのか、すぐに
              ベッドの上で寝息を立ててしまった。
              ジョーはそんなルナを撫で、そっと離れた。




                     
                           fiction