『 小さくて大 きな勇気 』




                今日も空は晴天だ。
                暖かい日差しが町を照らし、白い壁という壁をいっそう引き立てている。
                白い石畳をジョージは歩いていた。
                両脇にはお店や観光客向けのお土産屋さんが立ち並び、けっこう賑わっていた。
                よく母親と散歩したり買い物をしたりして来ていた道だったが、
                彼はちょっと冒険したくなり、外れた小道へ入った。母親がいると絶対に入れない
                場所だ。
                なのでジョージは何だか大人になったような気になって意気揚々と歩き続けた。
                少し行くと開けたところに出た。
                ここはどこだろう、見た事がないけど大丈夫かな・・と少し不安になった彼が
                引き返そうとしたとき、誰かがふいに抱きついて来た。
                「ジョージくん!」
                「うわっ」
                ジョージはとっさの事に何も出来ず、一緒になって倒れてしまった。
                「いたあ・・・」
                ジョージに抱きついていたのは、レナという女の子だった。
                「あ、血だ・・」
                ジョージは自分の腕を見て舐めようとした。
                「ダメ!」
                レナはそう言うと、ポケットからハンカチを出し、ジョージの腕に巻いた。
                「これで大丈夫よ」
                「こんなんで治らないよ」
                「いいんだもん、いつもママがやってくれてるから」
                2人は立ち上がった。
                「ジョージくん、どこ行くの?楽しいとこ?」
                「わかんないよ。でもここはいつもママとパパと一緒にくるから知ってるんだ。」
                「レナも一緒に行く」
                「うん、いいよ」
                ジョージとレナは歩き出した。

                丘の上にやってきた。広い場所に来ると子どもはしたいことが出来る。
                「追いかけっこしよう。レナちゃん鬼ね。」
                そう言うが早いか、ジョージは駆け出した。
                「あっ、ずるーい、待って」
                レナは慌てて彼を追いかけた。
                ジョージは笑って走り続けたが、ふと振り向いてレナが苦しそうな表情に
                なっているのを見て立ち止まった。
                「大丈夫?」
                「・・・うん、平気。ねえ、逃げなくていいの?」
                「もういいよ」
                ジョージはあ、という顔をした。木陰にグラニータ売りの小屋がある。
                「休もう」
                「・・食べたいなあ・・でもお金持ってこなかった」
                ジョージはポケットに手を突っ込んだ。
                「大丈夫、あるよ。ねえレナちゃん、何味がいい?」
                「ジョージくんと一緒でいいよ」
                「うん、わかった」
                ジョージは走り出し、お店にやってきた。
                「おじさん、リモーネ2つちょうだい」
                「リモーネね、あいよ」
                お店の主人はお金と引き換えに、紙コップにスプーンを差してジョージに
                渡した。
                「持てるかい?」
                「大丈夫。ありがとう」
                おじさんは笑った。
                「またおいで」
                ジョージも笑って2つコップを手にレナのところへ歩いた。
                「わあ、ジョージくん、ありがとう」
                「ううん。あそこに座って食べよう」
                2人はベンチに腰掛けた。


                ジョージとレナはその後も小さな町を歩き回っていたが、
                辺りがだんだん暗くなって来た。なので、帰ろうと思い今来た道を引き返そう
                とした。
                しかし暗い事に加え、小道が四方に渡っていてどこがどうなっているのか
                さっぱり見当もつかない。
                とりあえず戻ってみたが、突き当たりにきてしまった。
                そんな2人を上から見ていたのか、ビルの窓から1人の女性が声を掛けた。
                「おやおや、あんたたち、どうしたんだい?道に迷ったのかい?」
                ジョージは見上げた。ちょっと小太りのエプロンをした中年女性だった。
                「ううん、大丈夫。ごめんなさい」
                ジョージとレナはまた引き返した。
                そうこうしているうちにますます暗くなって来た。
                「ここどこ?ジョージくん」
                「・・わからないよ・・大丈夫、帰れるから。頑張ろう、レナちゃん」
                「うん・・レナ、ジョージくんと一緒だから平気だよ」
                2人はそのまま歩き出した。

                しかし辺りが暗いせいもあり、小さな彼らには気の遠くなる道のりに
                思われた。
                いったいいつになったら2人が住んでいる町に出るのだろう。
                と、レナがぐずぐず・・と泣き出してしまった。
                「・・あーん・・帰りたい・・」
                ジョージはそんな彼女を見て自分も泣きそうになり、声を出しかけて
                ぐっと堪えた。
                このままじゃいけない、ボクは男だ。
                そう自分を奮い立たせ、ジョージはレナの手を握って歩いた。
                「レナちゃん、頑張ろう。ボクがついてるから」
                「うん・・」
                2人はトボトボと歩き続けた。
                お腹空いたな・・・早く家に着かないかな・・。
                そんな2人の行く前方に人影が見えた。
                思わず彼らは駆け出した。
                「ママ!」
                そこには、ジョージとレナのそれぞれの母親が立っていたのだ。
                彼女達は飛び込んで来た我が子を抱きしめた。
                「随分冒険してきたのね」
                「もう大丈夫よ、帰りましょう」
                母親たちは彼らの涙を拭ってあげると、手を引いて並んで歩き出した。
                町の灯りが、暖かくこの2組の親子を包み込んだ。


                              ー Fine  ー







                               fiction