『 女はつらいよ? 』



              ジュンは顔を上げ、入って来たジョーを見るなり、こう言った。
              「ねえ、ジョー。ちょっと付き合ってくれない?」
              「・・・は?」
              「お買い物に行かなくちゃなんないの。」
              「甚平はどうしたんだよ。いつも頼んでたんじゃねえのか?」
              ジュンは腰に手を当て、ため息をついた。
              「それが、遊びに行っちゃったきり、帰ってこないのよ。そろ
              そろ買い出しに行かなくちゃいけないのに。」
              「それで俺に買い出しの手伝いをしろって?」
              「そうよ。さ、行くわよ。」
              「お、おい。」
              ジュンはジョーの腕を引っ張って半ば強引に連れ出した。
              ジョーはもはや抵抗する余裕もなく彼女に付き合わされる事と
              なった。

              彼らはドラッグストアのようなお店が並ぶ通りを歩いた。通り
              過ぎる人もまばらだ。
              「何を買うつもりなんだ?」
              「卵と牛乳よ。あとお酒も少しね。ちょっと重たくなるけど。」
              「分かってるよ。どうせそういう魂胆だろ。」
              「あら、男でしょ。文句言わないの。」
              ジュンはそう言いながらもさっきから何となく人の視線を感じ
              ていた。
              「・・私たち、どう映っているのかしら。」
              ジュンがそうつぶやくと、ジョーは彼女を見た。
              「え?」
              「何でもない。あ、ここよ。」
              そして店に入ろうとしたが、そこへ声がした。
              「ジョーじゃないの。」
              2人はその声の主を見た。
              背のすらりとした、スリット入りのタイトスカートを履いた、
              美女が立っていた。後ろには女性が2人いる。
              ジュンは、彼女の服が大きく胸元のあいたデザインだったので
              思わず顔をしかめた。
              ジョーは涼しい顔で彼女を見た。
              「・・ああ、君か。ふーん、普通の格好しているとあまり分か
              んねえな。」
              「あら、そう言う貴方だって車から降りると普通の人じゃない。」
              美女はジョーの頬に触れた。
              「でも・・素敵なのは変わらないわね。」
              ジョーは彼女の手を静かに払った。
              「町中だぜ。」
              「あーら、照れちゃって、可愛い事。(彼の肩に手を乗せる)
              ねえ、時間ある?どこかでお話しましょ。」
              すると、ジュンは女性の手を掴んで離し、ジョーの前に立った。
              「ちょっと、これから買い物するのよ。どいてちょうだい。」
              「あら、ごめんなさい。あなた、見えなかったわ。デートして
              たの。」
              「まだ子供じゃない。」
              後ろの女性がそう言ってくすくす笑うと、ジュンはきっと睨ん
              だ。
              「じゃあ、お邪魔のようだから、行くわ。ジョー、こんな小娘
              に飽きたらいつでも声掛けて。待ってるわ。」
              女性たちは行ってしまったが、ジュンはまだ怒っていた。
              「もうっ、何よ。気取っちゃってさ。誰なの、いきなり。」
              「レースクイーンと取り巻きさ。」
              「・・・レースクイーン?どうりであんなーホント、嫌らしい
              格好して・・」
              「あいつ、いつもあんな感じなんだ。助かったぜ、ジュン。」
              ジョーはそう言うと、歩き出した。
              「さっさと買い物済ませちまおうぜ。」
              「あ、待ってよ。」

              ジュンとジョーは紙袋を手に店から出て来た。そしてしばらく
              歩いたところで、ジョーは突然足を止めた。
              「ジュン。」
              「・・えっ?」
              「あれ、ジュンに似合いそうだな。」
              ジュンは彼の視線の先を見た。そこはブティックのショウウィ
              ンドウで、マネキンが2体立っていた。
              ジョーはその中へ入ってしまったので、ジュンは慌ててついて
              行った。
              彼はそのマネキンのしていた同じストールを見つけると、それ
              を彼女の首にかけてやった。それは淡い桃色をしていて、ジュ
              ンによく似合っていた。
              「綺麗だぜ、ジュン。」
              「・・あ、ありがとう、ジョー・・」
              ジュンは頬を赤らめ、ストールをそっと触った。
              「買ってやる。」
              ジュンはぼうっとしていたが、はたと我に返った。
              (・・はっ、いけない。私ったら・・。ジョーが買ってくれる
              からって・・。第一、ジョーは私なんか仲間としてしか思って
              ないわ。これは彼にとっては普通の礼儀なのよ。)

              2人はスナックジュンに戻り、ジョーはコーヒーを飲んで帰っ
              た。
              そしてジュンはその後やってきた健に今日の出来事を話した。
              一体健はどう思うだろう、何か反応はあるかしら。
              しかし、健はこれといった感心はなさそうだ。彼は新聞を見な
              がら適当に相づちを打っている。
              ジュンは怒るのを通り越してあきれ顔になった。そしてわざと
              聞こえる声でこう言った。
              「また、ジョーとデートしてこようかしら。」
              「うん、いいじゃないか。今度はどこへ行くんだい?お土産、
              待ってるよ。あいつ、俺と違って金持ってるから、何が奢らせ
              ろよ。」
              すると健の顔にエプロンが飛んで来た。
              「もうっ!健のバカ!!鈍感!」
              「は?・・お、おい、何怒ってんだよ?・・・何処行くんだ?
              店はどうすんだよ。」
              「貴方がやってちょうだい!」
              ジュンは扉をぴしゃりと締めて出て行ってしまった。
              「何だい、あいつ・・」

              しばらく健の立ち入り禁止が発令されたのは言うまでもない。



                             fiction