『悪戯』
BC島のとある小さな町で突然火の手が上がった。
町の人々は一斉に逃げ惑い、小さな子供たちの鳴き声が響いた。
やがて火は消し止められ、けが人もあまり出ず、みなはとりあえず安堵した。
そして一体どうしたのかと話し合っているうちに町の人々はやがてどうやら
子供が関わっているらしいと噂を始めた。というのは誰かが火の手が上がった
直後に逃げるように走って行く子供たちを見たと言ったからだ。
そんな中、一人の男が辺りを見渡し、ある一軒家にたどり着くと、ドアを叩い
た。
「はい。あら、ヨーゼフ。主人は今ちょっと出先なの。」
「そうか…ジュゼッペはいないのか。まあいいや、あんたにはちと酷な話かも
しれないなあ。」
「…どういう事?」
ヨーゼフと呼ばれた男はふうと息を吐いた。
「この前、火事があったろ。あれ、どうやら子供の仕業らしい。…それで、見
た奴の話を聞いてみると…その子供の一人が、ジョージのようなんだ。」
「…ジョージが……まさか。」
「カテリーナ、あんたは凄くあの子を可愛がってるから聞くのも嫌かもしれな
いが、これは事実らしい。あの子は、たびたび悪さをしている。アランって子
と一緒にな。」
「……………。」
「きっと町のみんなはあんたたちに何か言いに来るかもしれない。少しでも心
構えが必要だと思って先に話しておくよ。ま、きっと何かあったんだろ、あま
りきつく責めたりしないでやってくれ。まだ小さいからな。じゃ。」
ヨーゼフはそう言うとまた辺りを見渡しながら立ち去って行った。恐らく普段
から顔なじみのよしみで、みなに気づかれないようわざわざ知らせてくれたの
だろう。
その話を聞いたジュゼッペは酷く驚き、同時に悲しんだ。
2人はジョージに直接問いただす事にした。父は彼をベッドに座らせて自分は
しゃがんで彼を見上げた。ジョージはうつむいて視線を逸らしていた。
「ジョージ、この前の火事はお前とアランの仕業だと聞いたが、本当かい?」
ジョージは黙っていた。カテリーナは何も言わずじっと彼を見つめた。
彼は母の悲しそうな顔を見て慌てて顔を背けた。いつも自分に朗らかな笑顔を
向けている彼女のそんな顔を見るのは嫌だった。
のでジョージはうなずき、そしてこう切り出した。
「…パパたちが悪い事をしているって聞いたんだ。」
「えっ………」
「…悪い事って…何してるの?本当なの?」
2人は何も言えずに黙ってしまった。
誰かが自分たちを見ていてジョージに話したのだろうか。
事の発端はこうだった。
街角で近所の子と遊んでいたジョージに他の子らがやってきてこう言ったのだ。
「ジョージ、お前の父ちゃんと母ちゃん、悪い事してるって聞いたぞ。」
「悪い事って?」
「何か盗んだり、人殺しとか。」
「うそだ!でたらめ言うな!」
「ウソじゃないよ、オレの父ちゃんがそう言ってるもん」
「黙れっ!」
ジョージはその子に向かって行った。そして2人で取っ組み合いを始め、大げ
んかに発展した。周りの子らがはやし立て、その場が騒然となった。
するとその相手の子の兄がやってきてジョージに殴り掛かって来た。しかし石
が飛んで来て、彼が怯んだ隙に、誰かが駆けて来てジョージの手を引いて走り
出した。
「こっちだよ。」
2人はかなりの距離を走ってやがて洞穴みたいな場所に入った。そして息を潜
めてしばらく動かないでいたが、追ってこない事を確かめると、2人はやれや
れと座り込んだ。
「ありがとう、アラン。」
アランは笑った。
「気にすんなよ、あんな奴の言う事なんか。ジョージのパパたちは悪い事なん
てしてないよ。」
「うん……」
「そうだ、あいつら懲らしめてやらないか?やり返そうよ。」
「どうするの?」
「あいつらの家から金目のものを盗んでやる。」
2人はそれからというもの、盗みや破壊、等の悪戯を始めた。最初は店の果物
を盗る、くらいだったのが徐々にエスカレートして行き、ついに放火をしてし
まったのである。
始めは虐められた腹いせだったのだが、ジョージは次第に両親への不審が心の
中に芽生え始め、それが原因となっていた。
夫妻はそう話しているうちに泣き出したジョージを見て心が痛んだ。
カテリーナは彼の隣に座り、抱き寄せて優しく撫でて言った。
「ジョージ。ママたちは悪い事なんてしてないわ。大丈夫。安心して。」
しかしジュゼッペは立ち上がり、窓から外を眺めた。
確かに自分たちにいる所は犯罪組織だ。各所で危害をもたらし、殺人行為もし
ている。どこから漏れたのか定かではないが、やはりこのような事をしている
のが分かってしまうのは時間の問題だ。やがてこの子にも危険が及ぶだろう。
彼はやはり脱退をするべきだと考えていた。こんな悪事とはおさらばしてごく
普通の人間として恙無く親子揃って暮らそう。
彼らがギャラクターという組織から抜ける決心をするのはそれから間もなくの
事である。