『  望郷 』




                 その日のスナックジュンはそこそこの若者達で潤っていた。
                 なので彼らの対応で甚平もジュンも忙しくしていたが、一通り終わったところで
                 静寂が訪れた。
                 ジュンはテーブルを拭き終わり、カウンターに戻って台拭きを洗うと、端に腰掛
                 けているジョーにコーヒーを持って行った。
                 「・・ああ、ありがとう。」
                 「ねえ、ジョー。」
                 「ん?」
                 「今度、貴方の島が紹介されるみたいよ。」
                 「・・紹介?」
                 「ほら・・よく外国の風景とか人々の暮らしや様子を見せる番組やってるで
                 しょ。」
                 「・・ああ・・」
                 「きっとあまり癒えてないかもしれないけど・・少しずつ復興してきてるって
                 聞いたわ。綺麗な風景とか見られるといいわよね。」
                 ジュンはちょっと微笑んでまたカウンターまで戻った。
                 ジョーはしばらく考えた。
                 あの島を支配していたギャラクターはあれ以降すべて撤退したと聞いた。
                 人々はきっと元の平和で美しい島に戻すべく努力しているのだろう。

                 でも、彼はまだあの島を思い出すと心が痛んだ。あまりにも辛い思い出ばかり
                 だからだ。
                 それでもジュンが言ってた例の番組を見てみようかと思った彼は画面下のスイッ
                 チを押した。子ども時代に見た明るい光景が少しでも彼の心を癒してくれるのを
                 期待したからだ。
                 それは上空からその島を見せていた。青い海、白い砂浜、高くそびえ立つ岩肌、
                 とそこに映る景色はごく普通に綺麗だった。この間までギャラクターが支配する
                 血なまぐさい場所だったとは思えない。
                 だが、彼には一瞬に映る、荒れた土地を見逃さなかった。きっと島民を苦しめ、
                 また争いが起きたところなのだろう。
                 ジョーは火山近くの広場を見て子どもの頃よくそこから海を眺めていた事を思い
                 出し、懐かしんだ。
                 そうだ、この近くには教会があった。親父と同じ名前の教会だ。
                 ここではよくグラニータ売りがいてお袋によくせがんだっけ。
                 お小遣いで買えるほどのものだったが、彼は母親に買ってもらうのが嬉しかった
                 のだ。
                 画面は町外れの原っぱの上空になった。
                 思い出すのは、一緒にいたずらをして遊んだ親友の笑顔。あの頃は何も考えず
                 ずっと1日中遊んでいた。
                 自分は故郷を離れ、親友はとある教会で神父になった。

                 なるほど、この画面を見る限りこの島はもう立ち直りつつある。大丈夫だ。
                 だが・・・。
                 「俺の知っている人たちは皆、墓の中だ。」
                 どんなに島が平和になっても、彼らは戻ってこない。

                 番組の途中で彼は立ち上がった。
                 そしてシャワー室に向かうと、蛇口を捻り、そのまま頭から浴びた。
                 ジョーは目を閉じてそのままでいた。衣服を脱ぐ事もせずびしょ濡れだったが、
                 お構いなしだった。

                 ジョーはシャワーを止めて、タオルで顔を覆った。
                 しばらくそうしていたが、やがてバスタオルに包まって部屋に戻った。画面は
                 まだ島を映していた。
                 そうだな、平和になったのを見届けたのは良かったかもしれない。
                 後は、このような悲劇を繰り返さないよう自分たちが戦い続ければいい。

                 ジョーは再び腰掛けて画面を見つめた。








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