『 満天の空
の下で 』
ISOにその連絡が入ったのはある日の夕刻だった。
1千万ドルと引き換えにギャラクター本部のありかを教える、とある女性から
だったのだ。
ISOはその情報が信用できるかどうかを調べ、それが事実らしいと突き止め
ると、南部博士は科学忍者隊をさっそく指定の場所へと派遣した。
連絡してきた女性は、アフリカで行われる5日間の耐久ラリーに出場するとい
うので、忍者隊を乗せたゴッドフェニックスはそこへ降り立った。
ラリーに出場することなので、ジョーがその女性と共にし、残りの4人はゴッ
ドフェニックスで上空から彼らを護衛することになった。
その女性はルシーと言う名で、元ギャラクターの幹部ということだった。
ジョーは彼女に会うのは初めてではない気がした。昔彼の父が友人だと言って
一人の女性を紹介してくれたのだ。そのときジョーはまだ子供だったのでただ
のパパの知り合い、としか思わなかったのだが、その女性が何をしていたのか
は特に知らされていなかった。
その女性があのギャラクターに?
ジョーはなぜ彼女が裏切って本部を教えると言ってきたのだろうと思った。
久しぶりに会った彼女はあの時もだいぶお姉さんに見えたのだが、今でもずっ
と年上の女性に見えた。
ラリーの間、ルシーはジョーと行動を共にしたが、やがて彼女は本当の目的を
彼に告げた。
実はギャラクターを裏切り、自分が組織を乗っ取ってやるのだと。そのために
は、科学忍者隊にベルク・カッツェや総裁を倒して欲しい。そしてあわよく
ば、彼に手伝ってほしいとも言った。
ジョーは休憩を兼ねたほんの時間に外へ出て深呼吸をした。実際、ずっと彼女
といるとなんだか
時間に追われて息をするのも忘れてしまいそうに思えた。
(あれだけ強くなけりゃ、あんなところにいられないだろうからなあ)
彼はふと空を見上げた。そしてじっとそれを見つめた。
やがてルシーがやってきた。突然ジョーがどこかへいってしまったので、探し
ていたのだ。
そして彼女は、車のボンネットの上に寝そべって上空を眺めている彼を見つ
け、近くへやってきた。
「何してるのよ、ジョー。」
ジョーは彼女を見ずにそのままの姿勢で言った。
「星が綺麗だぜ。君も見ろよ。」
「星?」ルシーは笑った。「面白いことを言うのね。」
「そうか?」
「だって、あなたのような人がそんなロマンチックな事を言うなんて。」
「俺はだた綺麗だって言っただけだぜ。」
「そう。でも少しだけよ。時間がないんだから。」
「・・・・やれやれ。」
しばらく2人は星空を見ていたが、やがてジョーが口を開いた。
「ルシー。ギャラクターを乗っ取るって言ってたな。いったいどうしようって
いうんだ?」
「あいつらはもっと使える筈よ。カッツェや総裁じゃダメ。私はもっと頭を使
うわ。カッツェのようなへまは絶対やらない。」
「立派だな。だが、なぜ俺を誘おうとする?」
「当然でしょ、だってあなたはギャラクターのー」
「え?」
ルシーは口をつぐんだ。
「(・・・ジョーはまだ知らないのね)・・いいえ。なんでもないわ。」
彼女はちらとジョーの横顔を見た。
(きっと今にわかるわ。)
「しかし、報酬の1千万を持ってすんなり逃げられるかね。相手はギャラク
ターだぜ。」
「やるわ。言ったでしょ、私はへまはしないって。」
ジョーは笑った。
「たいした自信だぜ。分かったよ、君ならうまくいくだろうな。そして俺たち
はギャラクター本部を叩けるってことだ。」
「そうよ。そのためには優勝する必要があるの。きっとやってやる。」
「俺もあいつらが憎いからな。あいつらをやっつけられるのならなんでもやる
ぜ。言っておくが、これは俺だけのためにやるからな。」
「ええ、もちろん。私は私だけの利益のためにやるだけよ。」
「なあ、綺麗だろ。」
「そうね。」
「良かった。さっき”ロマンチックな事”だって言ってただろ。少しそんな気持
ちがあるって事はあんな所にまだ全部心を売っちまってないって事だから
な。」
ルシーはふふんと笑った。
「・・・まだ人の心があるって言いたいの?」
ジョーは車から飛び降りた。
「行くわよ。」
「わかった。」
2人は車に乗り込んだ。
そして再び、彼らを乗せて砂埃を巻き上げ、加速をつけて走り去った。
また過酷なラリーが再開されたのである。
そんな車を見守るように、夜空の星たちが瞬いた。