『 憂鬱な悪
魔たち 』
バー「Black JUN」。いつものように魔界の若者たちで賑わっているーとならず、カウンター
ではいつものしけた顔でちびちび赤い液体を飲む若い悪魔たちがいた。
「やれやれ、このトマトジュースも飽きたなあ」
「早く認められて生き血を飲みたいぜ」
角も立派な、顔立ちのはっきりした眉目秀麗な2人がそう言うと、カウンターで皿洗いをし
ていた小さな子供の悪魔が続けた。
「ムリムリ、魔王様はオイラたちのことこき使うばっかりでちっとも優しくないじゃんか」
「何言ってんの、ジンペイ!」隣にいた緑色の髪が特徴の美女が言った。「魔王様は何かお
考えがあってきつくしているのよ。悪く言うもんじゃないわ」
「お姉ちゃん、そう言うけどねー」
「まあまあ、ジンペイ。魔王様はあれでも十分俺たちを思ってくれているさ」
「ふっ、さすが優等生のお答えだな、ケン」
「ジョーだって頭が上がらないくせに」
すると、カウンターの隅にいた相撲取りのような体格の悪魔が言った。
「そんなことよりもっと食えるもんないんかいのお。これじゃ腹にたまらんわ」
「文句言うなよ、リュウ。もうこれっきりしかないんだ」
「けっ、しけた店だわ」
「ま、何よ、リュウ!文句あるんなら出て行ってもらうわよ!」
「おお、おっかねえ」
さて、この5人の若者たちは、魔王お抱えの部下たちとあって一目置かれている、というこ
とになるのだが、いかんせん血気盛んな若い連中なのでやることが雑で荒っぽいところがあ
るため、魔界ではちょっと遠巻きにされていたりするのだ。
ちょっとだけ紹介すると、
ケンー荒くれを率いるリーダー。恋沙汰には疎く、また真面目すぎるきらいはあるが、腕は
めっぽう強くハッタリもピカイチ。
ジョーー彫りが深く眼光が鋭いちょっと強面だが、動物に弱い面も。喧嘩っ早いのが玉の
傷。ま、いいか、悪魔だから。
ジュンーメンバーの紅一点。黙っていれば目鼻ぱっちりの美女だが、怒らせると鬼より、い
や魔王より怖い。ケンが全くトンチキなので最近は愛想を尽かしている。
ジンペイーメンバーの最年少。頭が切れ、小回りが利く。ジュンを姉と慕っている面もある
子どもらしい面があるが、それで気を許すと大変な目にあう。
リュウーメンバー1の大食漢。大きな体を生かして悪い奴らをなぎ倒す・・って悪魔じゃな
いじゃん。
こんな感じだ。
ピーピーピー
ケンは腕にはめたブレスレットのドクロ部分を押した。
「はい」
『ああ、ケン。他のみんなもいるかね?』
「ええ、いますよ、魔王様」
『至急私のところへ来給え』
「はい」
ケンは同じようにブレスレットを聞いていた4人に言った。
「聞いてのとおりだ、行くぞ」
「ラジャー」
魔王は背中を向けていたが、彼らがやってくるとくるりと顔を向けた。
「ああ、早かったな」
「何か緊急なことでも?」とケン。
「もしかして魔物たちが反逆を起こしたとか」
ジンペイがそう言うと、ジュンもすかさず聞いた。
「そうよ。魔王様、どこかの良からぬ者達が魔王様の御命を狙っているのですね」
「い、いや・・そうではない」
「じゃあ、なんです?」
ジョーがそう言うと、魔王はしばらく間をおいて、威厳のある声でこう言った。
「散歩だ」
「・・・は?」
「散歩に行くので周りを歩いてくれ」
「ああ?またあ?」
リュウが思わずそう言ったのは理由(わけ)がある。
自分たちを侍らせるためだ。
背の高い男前の2人や美女、可愛い子供に力持ちの優男が歩くだけで皆ゆくゆくはそれだけ
の権力があるのだ、などと思ってくれるという自慢だ。
しかし魔王は知らない。実は彼らは魔界きっての札付きで本当は恐れられているということ
を。
なので、そうとも知らずこちらを見てヒソヒソ話をしている魔界の住人たちを眺めて一人悦
に浸っているのだ。
で、5人は、というと魔王に近づかないように追いはらうふりをして仕方なく付いて行って
いる感じだ。
しかし、そんな彼らではあるが、やはり見た目は美形だったり愛嬌があったりするので、中
には嬉しそうな顔をしている連中もいた。
魔界の時計が鳴り響いた。
魔物たちが途端に同じ方向に歩き出す。今宵はハロウィン。年に一度のお祭りの日だ。人間
界へ出かけ、そこの生き物たちを脅かす楽しみがあるのだ。
「人間界へ行くか」
「うわあい、魔王様、いろんなところへ遊びに行っていい?」
ジンペイは子供らしく無邪気に顔をほころばせた。
「あまり無茶をするんじゃないぞ」
「わかってるよ」
「また去年みたいに迷子にならないでよ、ジンペイ」
「大丈夫だってば」
(美女の血でも飲みたいもんだな・・)
「こら、ジョー。大人になってからだ」
ジョーは魔王が振り向かずにそう言ったので、思わず顔をしかめた。
「・・ちぇっ」
ケンは笑った。
そして魔王と5人の若者の悪魔は人間界へ繰り出していった。
ー 完 ー