ー エピソード1 一報 ー
警察署内にある捜査一課に1本の電話が入った。職員たちは一斉にそれに視線を注ぎ、
そして受信した職員が受話器を置いて向けた目を見て、険しい表情をした。
やがて白バイが交番にやってきたが、ヘルメットを脱ぐのもそこそこに女性警官は開い
たドアから入ると、こう言った。
「ねえ、ちょっと!聞いた?・・もう、2人とも何のんきにコーヒーなんか飲んでんの
よ!」
「あ?」
「何だ、ジュンか。どうした」
「どうした、じゃないわ!」
純子はやっとヘルメットを脱いだ。緑色の髪がはらりと落ちる。彼女のそんな仕草は他
の男性職員には魅力的なのだが、全くもって2人は動じる様子もない。
「ジョー、貰うわよ。・・・健もどうしてそんなにー」
彼女ははあとため息をついた。
「・・そうね、ここは孤島だったわ」
「そういうこと」健一はカウンターに乗せた脚をどかして立ち上がった。「事件か?ど
うせ俺たちは行ったって邪魔者扱いされるだけだからな」
「俺たちには知らせる気ないからな。奴らの嫌味を聞かされるだけだ」
「・・・大変よ」
2人は黙って彼女の方を見つめた。
『国際麻薬シンジゲート、入国か』
「くそっ」
吉羽は持っていた新聞をグシャグシャと握った。田中は慌てた。
「あっ、それ、まだ課長がー」
「とうとう現れやがったか」
「でも先輩、変ですよ。あの時の入電だって誰が掛けてきたのかわからないし」
吉羽は大きく息を吐いた。
「それを調べるのが俺たちの仕事だ」
彼はそう言うと歩き出した。ので、田中も付いて行った。
「おーい、今朝の新聞どうした?」
「ああ・・その丸まってるやつです。開けてごらんください・・」
田中は愛想笑いをしてささっとその場を離れた。課長ははあと大きなため息をついた。
「大変じゃねえか、なぜそんな大事なこと連絡してこない?」
「わかってるだろ」
「くそう・・なめやがって」
城嗣はそう言って新聞をまるめて放り投げたので、純子はそれを受け止めた。
「ヤダ、まだ読んでないわ」
「殴り込みに行こうぜ」
健一はニヤッと笑った。城嗣と純子も顔を見合わせ、彼を見た。
「当たり前だぜ」
捜査一課は相も変わらず誰も彼もがせわしなく動き回っていた。が、この男はのんびり
と椅子に腰掛け、コーヒーを飲んでいた。
「ねえ、吉羽先輩」
「なんだ、うるさいぞ。静かにしたまえ」
「行かなくていいんですか」
「どこへ」
「どこってー」
「ほう、捜一切っての仕事屋である刑事さんたちがこんなところで居座っているとはど
ういう了見です?」
「はあ?うるせ・・・」
吉羽はコーヒーを吹き出しそうになり、田中はうろたえた。
健一はふんと鼻で笑った。
「ど、ど、どうしてー」
「此処にいやがるんだ、って言いたいんでしょ」
「俺たち暇なもんでね。何かお手伝いできればと思ってね」
「お手伝いなんか頼んだ覚えはありませんっ」
「ええ、頼まれた覚えないわよ」
「それじゃあお引き取りください。忙しいんで。じゃ、これで」
「これで」
吉羽と田中はそそくさと行ってしまい、3人はやれやれと顔を見合わせた。
「俺たちもやるか」
そして捜一の中を歩いて行った。
部長室。
副部長はじっと部長を伺っていた。部長といえばずっと苦虫を潰したような険しい表情
をしている。
なので副部長はどうやって声をかけたらいいのか迷っているのだ。
「おい」
「あ、はい」
「あいつらの耳に入ったか?」
「あいつら・・と申しますと・・?」
「”あいつら”だっ」
「ああ、どうでしょう・・もう何も情報がいかないようシャットアウトしていると思い
ます。何しろ、あそこは孤島のー」
部長は立ち上がった。
「いいから、知らんのなら知らせろ」
「・・はい?」
「悔しいが捜査力に観察力、腕どれを取っても引けを取らん。お上からも信頼を得てい
る」
「署長はちと彼らを買いかぶりすぎておられるのでは・・」
部長はキッと副部長を見た。
副部長は愛想笑いをして無線を取った。
また嵐が起きそうだな、と思いながら。
「知りませんよ、何が起きても」
部長は腕を組んだ。