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                        ー エピソード5  不意打ち ー



              「本条警部補、これが例の書類です」
              「ありがとう」
              皐がそう言って彼女に顔を向けたが、女性警官はぎこちなく会釈してそそくさと行って
             しまった。
              彼女は奥の方でカタカタとキーボードを打っている男性に近づいた。
              「あのー」
              「あ、すみません、時間がかかりそうです。いつも突いているんですが」
              「そうですか。いえ、急いでませんので」
              男性はちょっと笑みを浮かべて、また忙しそうに手を動かした。
              皐はふと顔を上げた。すると自分を見てたであろう2、3人が散り散りになってそれぞ
             れ机に戻った。

              署内の地下にバーがある。
              夜にはここで一杯、という署員らが立ち寄って談笑したり一人グラスを傾けていた。も
             ちろん皆私服だ。彼らにとってここは仕事を忘れられる普通の場所なのだ。
              城嗣と皐はカウンター席で並んで腰掛け、それぞれカクテルを嗜んでいた。
              やがて城嗣は口を開いた。
              「・・そうか。気にすんなよ、君がとても仕事熱心で優秀だからちょっと反抗している
              だけさ。でも、皆認めてる。君のことをね。・・人間ってそんなもんさ」
              皐は笑った。
              「ええ、あなたに慰められるなんてね」
              「(苦笑)おいおい・・・」
              「里香が、華音ちゃんと楽しく過ごしているみたいですよ」
              「ああ・・交流があるって言ってたね」
              「ええ。先生にまるで姉妹みたいだって言われて、もう大喜びで」
              「ふうん」
              城嗣は少し考えたが、グラスを口にした。


              交番内の奥まったスペースではテレビを見てプチケーキを食べている純子の姿があっ
             た。
              「また食べてる」
              純子は振り返らずにコーヒーを飲んだ。
              「いいじゃないの、いっつも留守なここにいてあげてるんだから、感謝しなさい」
              城嗣はやれやれと頭を振り、自分もコーヒーを注いだ。
              「健は?」
              「知らない」
              「おい・・」
              「私なんかどうでもいいんでしょ。ここへ来たら、待ってましたとばかりに出て行った
              わ。・・もう2度と入れてあげないから」
              と、その時入り口が開いて、健一が入ってきた。
              が、彼を見るなり城嗣は叫んだ。
              「どうした、健!?」
              中へ進んだ健一はワイシャツの裾を破き、血の流れる腕にきつく巻きつけた。
              「突然飛びかかってきやがったんだ」
              「まあ!」
              「それで?そいつは逃げたのか?」
              「いや。捕まえて送ってやったさ。ちょうど吉羽さんたちがいたんでね。渋い顔してた
              けど。任せたよ」
              城嗣はふっと鼻で笑った。
              「頭のおかしい奴もいるもんだな、おめえに襲いかかるとはよ。自殺行為だぜ」
              健一は笑って奥へ行った。
              純子は彼を目で追った。
              「健!ちゃんと手当てしないと!」
              「平気だ、このくらい」
              「ダメよ!」
              健一がさらに奥へと行ってしまったので、純子は慌ててついていった。
              城嗣は腰掛け、腕を組んで目を閉じた。
              そう言えば、最近似たような事件がちょくちょく起きている。
              皆関連しているのか?

              しばらくして純子が出てきた。
              「いい?健。大人しくしてんのよ」
              「わかったよ」
              「じゃあね、ジョー。あなたも気をつけてね」
              「ああ、ジュンもな」
              「私は平気よ」
              純子はヘルメットをつけ、出て行った。そしてしばらくしてバイクの音が聞こえ、やが
             て聞こえなくなった。
              「ジョー」
              声のする方を見ると、健一が腕を見せた。
              「・・すまない、やり直してくれ」
              なるほど、包帯がねじれたりしてぐちゃぐちゃだ。
              城嗣はため息をついた。
              「どうやったらこうなるんだ」
              「知るか」
              城嗣はやれやれと言う表情をした。なんだかいつもこのパターンだな、と思いながら。








                            
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