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                    ー エピソード4 若い男 ー



        倉庫の中で一人の男が険しい表情で座っていた。が、やってきた若い男を見上げると、こう言った。
        「・・・やってきたか」
        若い男はぎこちなく頷いた。
        「誰にも見られなかったか」
        「・・はい」
        しかし彼は行ってしまい、男は大きく息を吐いた。そしてサングラスをかけたスーツ姿の男に言っ
       た。
        「けっ、相変わらず面白くねえやつだ。近頃の若い奴は覇気がねえ」
        「確かめますか」
        「いや、待て」
        男は立ち上がり、ある部屋へ向かった。そして大きな音を立ててドアを開け、壁に寄りかかってうず
       くまって自分を見上げた若者を見た。
        「・・・お前のことを心配してるんだよ。俺たちのところで働けば安泰だ。だろ?」
        「・・・」
        「・・・復讐したいんだろ。俺たちはお前の思いを叶えてやりたいんだ」
        男はしゃがんだ。
        「手助けしてやるぜ。だから・・・わかってるよな」
        若者は黙って頷いた。


        「抗争?」
        城嗣がそう言うと、目の前にいた皐は彼を見た。
        「ええ。もう20年近くになります」
        彼女は分厚いファイルを取り出した。
        「このホントワールの北に本拠を置く組とその西に本拠を置く組が市民を巻き添えにした大抗争を起
        こし、かなりの死傷者が出ました。もちろん組員も多くが死亡。片方のかしらを含む大多数が逮捕さ
        れたものの、片方のかしらが死亡したのです。相手の組員に暗殺されたようです」
        「ふーん・・」
        「そういえば、寮の近くで倒れている人を助けたそうですね。様子がおかしかったとか」
        「ああ、あれは絶対にやってるな。最近通報の多い案件となんらかの関連性はありそうだ」
        と、城嗣はズボンのポケットに入っている携帯のバイブを感じて取り出した。
        「はい、浅倉です。・・・ああ・・ありがとうございます。後ほど伺います」
        「・・なんです?」
        「鑑識からだ。例の男から反応があったって・・」
        「そうですか」
        ファイルを戻した皐は思い出したようにこう言った。
        「そうそう、殺されたかしらには当時まだ2歳くらいの子供がいたとか」
        「その子はどうしたんだ?」
        「さあ。行方が知れないそうよ」
        「・・そうか」

        「おや、なんだか似てますなあ」
        城嗣は吉羽を見た。いつの間に立ち聞きしてたらしい。
        「何が」
        「警部補どのも確か・・組織のかしらの”お子様”だったでしょ」
        「親父が殺された時俺は8歳だっ」
        「おやおや、そうでしたか」
        「・・・おめえ・・」
        「そいつと気が合いそうですな、ま、せいぜい頑張ってくださいな」
        「頑張ってくださいな」
        吉羽と田中は揃って行ってしまったので、城嗣は舌打ちをした。
        「チッ、金魚の糞みてえにいつもくっついてやがって。変な奴らだぜ」
        「気にしない方がいいですよ」
        「わかってる。大丈夫だ」
        城嗣は軽く会釈をして行ってしまい、皐はじっと彼の後ろ姿を見つめた。


        鑑識を訪れた城嗣をみた一人の職員が近づいてきた。ここのチーフをしている時田という切れ者だ。
        「これだ」
        城嗣は書類を手にした。
        「新しいな」時田は言った。「これは最近出始めたブツに違いない」
        「(頷く)やっぱり関係しているのか」
        時田はじっと城嗣を見つめた。
        「例の組織、だな。それはこちらも睨んでる。まだ確定じゃないが、その線だろ」
        「やっかいなもんだぜ。シンジゲートなら大元を絶たなきゃ無駄になる」
        時田はニヤと笑った。
        「ワクワクする、か?」
        城嗣は鼻で笑った。
        「・・やってみるさ」








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