title_banner
                 


                        ー エピソード3 奇声 ー


             夜遅く、誰もいない公園横を数人の学生たちがおしゃべりをしながら歩いていた。
             それはいつものことのような情景のようだ。
             が、そんな時突如公園奥から叫び声のようなものが聞こえた。
             「ぎょおええええええーっ」
             「・・え?」
             学生たちは足を止めた。
             「何?今の」
             そして誰かが出てきたのを見ていたが、その人物が彼女らを見て一瞬目を見開いたかと思
            うと、また意味のない叫び声をあげて、前方へ駆けて行った。
             「なんだろう・・気味わるーい・・」
             「あっ、お巡りさん」
             学生たちは自転車でやってくる巡査を見ると、駆け寄った。
             「お巡りさん!今、変な人がー」
             「え?どこ?」
             「あの公園から出てきたの」
             「ちょっと来て」
             巡査が自転車から降りるやいなや、彼女らが引っ張ったので慌てて帽子を抑えた。
             「ああ、そんなに引っ張らなくっても行くから・・・で、その人は」
             「向こうへ行っちゃった」
             「ああ、そう。君達みたとこ高校生みたいだね。こんな夜遅く歩いてちゃダメだ、早く帰
             んなさい」
             「信じてくれないのー?」
             「信じるから、信じるから、はいはい、帰った、帰った」
             学生たちは歩き出したが、またおしゃべりしてはしゃいでいた。巡査はやれやれと頭を振
            り、自転車にまたがった。

             「お疲れ様ー」
             「あ、お疲れ様でした」
             純子は書類の入ったファイルをしまうと、時計に目をやった。
             「さてと、私も帰ろうかな」
             部屋から出た純子は廊下をでてロビーに出ると、掲示板に目を通し、外に出た。
             「また誰かやらかして左遷させられているわ。しょうがないわね」
             と、しばらく歩いていた彼女の耳に何かの声が聞こえてきた。
             「なんだろ」
             すると、前方の方で悲鳴みたいな声がして、方々に人々が散っていくのが見えた。
             その人たちとは逆にその先へと進んだ純子は、刃物を持ってふらふらしている男が視界に
            入ったので、思わず駆け寄った。
             「ちょっと、あなた、何してるんです」
             「う~~~」
             純子は顔をしかめた。男は瞳孔が開きしかも目の動きが定まらず虚ろだ。足もおぼつかな
            い。
             まるで何かに酔っているかのようだ。
             でも、と彼女は気づいた。
             (何か臭うわ。お酒じゃない。これは・・)
             「さ、私と一緒に来るのよ。いいわね」
             男は振り払おうともがいたが、純子はそれにもひるまず、しっかり彼を押さえ込み、歩き
            出した。


             翌日の捜一には電話がひっきりなしだった。皆、例の奇声についての通報である。
             「これで40件目だ、どうなっている」
             吉羽がそう言うと、田中はこう言った。
             「誰かがばら撒いてるんじゃないすか」
             「誰が」
             「だから、知りませんよ」
             「知らんのなら、言うなっ」
             「もう・・」
             「薬物なら別の課だ、ここじゃない」


             健一は純子を見つけると、彼女のところへやってきた。
             「ジュン、変なやつ捕まえたって?」
             「彼、入院したわ。検査のためにね」
             「ふーん。かなり暴れたって言うじゃないか」
             純子は健一にちょっと意味ありげな表情をした。
             「そうなのよ~、健。ナイフなんか振り回しちゃって、怖かったわ・・」
             「ははは、ジュンなら大丈夫だ、怖いもの無しだろ。バカなやつだな、相手の怖さを知ら
             ずに。それより捜一がかなり忙しくなってきたみたいだぜ。俺たちもうかうかしてられん
             な」
             健一は行ってしまった。ので、純子は腕を組んでいーっだと言う顔をした。
             「ばかっ」

             純子からその話を聞いた城嗣は笑った。
             「そりゃあ、健に言ったって無理だぜ」
             「そうね」
             「お前は強いからあいつもすっかりそのつもりでいるんだろ」
             「少しはか弱くしたほうがいいかしら・・」
             城嗣はやれやれと頭を振った。
             「おい、ジュン。変な小細工したってあいつは動かねえよ。それよりあんまり無茶しない
             で応援頼め。なんだかとてつもなくでかい事件になりそうな臭いがするぜ」
             「でかい事件?」
             「(頷く)俺の勘は当たるんだ。嫌なことに関してはな」
             純子は腕を組んだ。
             「呆れた。なんだか楽しんでる口調ね、あなたらしいけど」
             城嗣はふふんと笑った。


             夜。火事で焼けた後建て直された寮へ戻った城嗣は階段下でうずくまっている人物を見て
            近づいた。
             「おい、大丈夫かー」
             彼はハッとした。男はぐらっと体を揺らしたかと思うと、地面にそのまま倒れてしまっ
            た。
             「おいっ」
             城嗣は体を揺らしたが、彼が震えているのがわかった。顔を向けさせると、口から泡を吹
            いている。
             「・・これは、まさか」
             「・・・おまわりさん・・助けて・・くれ・・」
             「・・・・・」
             城嗣は携帯を取り出した。







                               fiction