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                     ー エピソード11 薬物課部長 ー


            長い廊下を歩いて捜一の部屋へ向かっていた吉羽と田中の両刑事は目の前から歩いてくる人
           物を見た。
           「柏田部長、何か進展はありましたか」
           柏田は吉羽にそう声をかけられ、一瞬目を見開いたが、こう言った。
           「い、いや、まだだ」
           「そうですか。相手は一体どんな奴らなんです?」
           「まだわからん。ただ、かなり若めのチンピラ、ということだけだ」
           「へえ、若い連中ね・・」
           「それじゃあ、また」
           「ええ、何かあったらぜひ知らせてください」
           柏田はかすかに笑った。
           「はは、そちらは捜査一課だろう、今回は我々、薬物課の出番だ。他の事件を当たってくれ」
           吉羽と田中は立ち去っていく柏田の背中を見つめた。
           「ふんっ、これだから嫌になる。派閥争いしてちゃ事件は解決しねえだろ」
           田中はじっと柏田を見ていたが、田中に呼ばれて足早に追いついた。
           「ねえ、先輩。なんか胸騒ぎがするっていうか・・変な感じがするんですよね」
           「変な感じ?」
           「柏田さんですよ。俺たちを見てちょっとおどおどしていたというか」
           「・・考えすぎだ。なんで、奴が俺たちに?」
           「それは・・」
           吉羽は彼に向き直った。
           「昔っから、あちらさんと我々とは水が合わないとこなんだ、向こうは何かにつけ突っかかっ
           てくるんだよ」
           田中はうなづいた。
           「・・ったく、こんなことしてる場合じゃねえのになあ」
           吉羽は再び歩き出し、田中も続いた。

           柏田はある場所に来ると立ち止まり、あたりを見渡して鍵を取り出して部屋へ入った。
           そして窓から外を見るふりをして携帯を耳に当てた。
           「・・ああ、俺だ。・・・どうだ、首尾は。・・・心配するな、誰も気づいていない。ちょろ
           いもんだ。俺は実権を握ってるんだからな。邪魔はできないさ。絡 むとちょいと面倒な奴らが
           いるが、大丈夫だ。・・・わかってる、じゃあ上手くやれよ」
           彼は携帯をしまうと、チラと行き交う車を見て部屋を出た。


           「それは?」
           皐は健一の手にした装置のようなものを見た。
           「逆探のようなものさ。それも広範囲に渡ってキャッチできる。相手が何かシグナルを出した
           時にそれを記録してそれを使って探るのさ」
           「どこでそれを?」
           健一は肩をすくめた。
           皐は腕を組んだ。
           「なるほど」
           「上手く奴らが尻尾を出してくるといいがね」
           城嗣がそういうと、健一は彼を見た。
           「まあ囮を使うとか、だな」
           「・・やっぱりその手か」
           「まあかなり危険な仕事になるが、敵の懐に入れば捜査も楽になるってもんだ」
           そんな彼らのところへ近づく者がいた。
           「あら、柏田部長」
           皐は彼を見てそう言った。
           「ああ、本条くん。ここにいたのかね」
           「こちらはー」
           「知ってるよ、鷲尾巡査部長に浅倉警部補、だろ。署の有名人だからな」
           柏田は笑ったが、2人は顔を見合わせた。
           「で、薬物課切ってのやり手である部長がなぜこんなところへ?」
           「先ほど面白そうな話をしていただろう」
           「・・・・」
           健一は眉をひそめた。
           「ぜひ見せて欲しいんだがね」
           「見てどうするんです?」と城嗣。
           「あの例の組織のことだろう。どうかね、俺がその囮を買って出ようと思ってね」
           「部長が自ら?」
           皐は怪訝な表情で尋ねたが、健一の差し出した装置を手にした。
           「ああ、俺は薬物課のトップの一人としてこの事件を早く解決したいと考えている。奴らを一
           網打尽にすることに意欲を燃やしているんだ」
           「それは頼もしいですね。あ、部長、ちょっと細工をしますのでしばらくお待ちください」
           「ん?あ、ああ」
           健一はそっと何かを装置の奥へ差し入れた。
           「それじゃ、頼みます」
           「ああ。任せたまえ。捜一より俺たちの方が優れている、ということを証明してやるぞ」
           柏田は装置を持ってその場を立ち去った。
           「いいんですか?」
           皐は2人に尋ねた。
           「大丈夫、多分もっと楽しいことが起きるかも」
           健一は笑みを浮かべた。


           装置を置いた柏田は工具を使ってそれを分解し始めた。
           「ふん、こんなもの。ただの箱にしてやる」
           そしてあるコードを探し当てるとそれをペンチで切った。
           「これで作動しないはずだ。馬鹿め」
           柏田は逆探知の装置の作動を止める部分を知っていた。
           「あんな小僧どもに嗅ぎつかれてたまるか。俺の未来がかかってるんだからな」
           そしてそれを外へ持ち出すとあたりを見渡し、建物についた小さな扉を開け、そこへ放り込ん
          だ。

           一方、健一、城嗣、そして皐の3人は机に置かれたものを見つめていた。
           それは小型無線機で、柏田の独り言を今しがた聞いていたのだ。
           「どういうこと。事件を独り占めしたいのかしら」
           「・・いや、もっと深い何かがありそうだな」
           「ああ、奴をマークする必要があるな」
           「そうだな」
           「それにしても・・」と城嗣。「あいつ、どこへ捨てた?」





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