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                      ー エピソード10 早合点 ー




            交番を出ようとした城嗣は中に入ってきた皐を見て足を止めた。
            「ごめんなさい、ちょっと・・」
            「何かわかったのかい?」
            「ええ」
            城嗣は皐を奥へと導いた。
            そんなとき、1台のパトカーが通り過ぎた。が、運転していた美香はあれ、と止めた。
            「何よ、美香」
            「ほら」
            佳美は仕方なく交番に目をやった。
            「なんだ、いつもの光景だわ。私、気にしないもん」
            そこには、皐と談笑している城嗣の姿があった。
            美香はチラと彼女を見て交番に視線を移した。
            「へえ、そう?大人になったのね」
            「行きましょ、パトロール中よ」
            「はいはい」
            美香は車を走らせた。そして隣の佳美を見たが、彼女はじっと外を見つめている。
            (嘘ばっかり)
            美香はため息をついた。

            このところ、署内では彼らの噂で持ちきりだ。署一の暴れん坊に頭の切れる才女。
            いや、そうでなくとも美男美女の2人だ。否応無しに注目される。
            そして、お互いシングルの子持ち。
            様々な憶測が飛び交っているので耳に入るのは必至だ。

            佳美の近くにいることの多い純子もそんな噂をよく耳にしていたし、聞かれるたびに軽く受
           け流していたが、佳美のこともあるし、城嗣はどう思っているのだろうかと疑問だった。
            でもいつも同じだ。
            「ははは、そんなの気にすんなよ」
            「もう、あなたのことでしょ」
            城嗣は周りはただの暇人だとして全く取り合わない。
            まあ、最もそんなふりをしているのかもしれないが。
            「そんなことより、おめえたちはどうなんだよ」
            「えっ」
            「健は少しは気にするようになったか?」
            「知らないわよ。あなたがわからないんじゃ、私がわかるわけないじゃないの」
            「なんで俺が?」
            「わかってるでしょ」
            純子はプイと行ってしまった。
            「ジュン?」
            城嗣は肩をすくめた。


            署内を歩いていた佳美は皐を一緒に歩いている城嗣を見つけ、そっとあとをつけた。
            皐はいつものスーツ姿だが、城嗣も制服ではなくスーツを着ている。ネクタイはしてないの
           は彼らしいが。
            どこかに出かけるのか。もしやー。
            彼女は彼らと同じように地下へと降りた。
            駐車場に着くと、2人はある車に乗り込んだ。ここには覆面用の車が多数停められている。
            仕事?ならいいかー。
            「ううん、仕事じゃないかもしれない」
            佳美は別の車に乗り込んだ。そして彼らの車が外へ出るのを確認してエンジンをかけた。

            2人の行く先はかなり離れた場所だ。
            そしてある建物に来ると彼らは車から降りて、連れ立ってその中へ入っていった。
            近くまで来て同じように降りた佳美は、建物の古びた看板を見てみを見張った。
            「・・モーテル?!」

            中へ入った城嗣と皐は慎重に歩いていた。
            「いやに静かだな」
            「ええ。本当にここが?」
            「・・待て」
            城嗣が止まると皐も止まった。ドアが半開きの部屋があり、光がかすかに廊下へ溢れてい
           る。
            誰かが中にいるようだ。
            「彼?」
            「わからん」
            城嗣がそういって中を伺おうとした時だ。
            「浅倉くん!」
            「!」
            振り向くと佳美がつかつかとやってきた。
            「何やってんのよ!何をー」
            「お前こそ何やってんだ、なんで来た」
            「浅倉さん、逃げるわ!」
            「何っ」
            窓ガラスの割れる音がして中の人物は駆けて行ってしまった。
            「しまった・・・ん?なんだ、この音は」
            城嗣は眉をひそめ、彼女らの手を引いた。
            「早く離れろ!」
            そして茂みに飛び込むと同時に爆音と共に建物が爆発を起こした。
            城嗣はそっと顔をあげた。
            「・・間一髪だったな」
            「爆弾を仕掛けるなんて用意周到ですこと。私たちが来ること薄々感づいたのでしょうね」
            「そうかもな」
            「重要なものを取り逃がしてしまったわね、あんな大声を出すのは違反でしょ」
            皐は佳美を見た。彼女は済まなそうに目をそらした。
            「・・まさか調査だったなんて」
            「なんだと思ったの?」
            「・・・別に・・」
            「振り出しに戻ったか。あいつはきっと組織に戻って話すだろうよ」
            「またやり直すわ」
            「悪いね」
            「いいえ。私は仕事がしやすいように動くだけです」
            皐は車へ向かった。
            「一味らしい男が何かしでかそうとしているという情報が入ってね」
            「それでここへ?」
            城嗣はうなづいた。そして歩き出した。
            「・・あの、浅倉くん」
            城嗣は何も言わず、手を振った。
            「・・・」
            やがて2台の車は今来た道を引き返した。






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