中はまた屋敷までが長ったらしかった。木々という木々が生い茂り、どこかの森に入
り込んだような錯覚に陥る。
どこくらい走っただろうか。目の前に屋敷が見えてきた。
2人は停めてある他の車の近くに停車させ、降りた。
健一は、ドアの前に来ると、ちらと上にあるカメラらしきものを見た。城嗣もそれを
見て、目を合わせた。
インターホンを押すと、ドアが開いて一人の男が姿を現した。先ほどの声の主だろう
か。ガタイが立派で、いかにも用心棒っという風貌の強面の男だ。男の顔には切り傷の
痕が残っている。
「お前らか。見せろ」
2人は身分証明書を見せた。が、男がそれらを取り上げ、後ろにいた男に渡した。
「調べろ」
男は引っ込んだ。健一と城嗣はじっと息を飲んでなんでもないような顔をした。バレ
るのか?もしそうなったらやるしかないな。
やがて男が戻ってきた。
「確かにここの従業員だそうです」
「そうか」
切り傷の男は身分証明書を2人に渡した。
「入れ」
健一たちは軽く会釈をして入った。そして男たちの後ろをついていった。
「ここで待て」
傷の男がそう言ってある部屋に入った。そばには先ほどの男がいる。2人はひたすら
黙って待つしかない。
ドアが開いた。
「入れ」
やれやれ、こんなに命令されたのは始めてだ。彼らがそう思っていると、大きな椅子
に腰掛けた大柄の男が目の前にいた。
「お前たちが、今度新しく来た警備員か」
男は身分証明書をじっくり見た。
「ふーん。『ホントワール警備保障株式会社』、か。なかなかの男前じゃないか」
2人は目を合わせた。
「今までここの人間を雇ったが・・どれもダメだった。」
「そうですか。我々はヘマしませんよ」
「それは頼もしい。それじゃ、早速頼むよ」
男はそう言って、咥えていた葉タバコを消した。
「あの女狐どもから金庫を守ってくれ」
「案内するからついて来い」
2人は、傷の男の後について部屋を出た。
Black Widowが狙っている金庫は、屋敷奥のさらに奥まった部屋に置いてあった。厳重
な鍵と警備で守られている。
「また人を雇ったのか。どうせ失敗に終わる」
健一のそばにいた他の警備員がそう呟いた。
「前にもあったのか?」
「ああ。そいつがまた腰抜けでね。奴を見たら逃げ出した。今度は大丈夫だろうな」
「・・そう願いたいね」
「頑張るんだな。じゃ」
「おい、どこ行くんだ」
「やってられるかってんだ。俺の代わりに頼むよ。どうぜ無駄だよ、今度は相手が悪
すぎる」
健一は、そう言って去ってしまった警備員を見て、ため息をついた。
Black Widow・・・確かに手強いかもしれない。
健一はとりあえず金庫の辺りを観察した。施錠はしっかりしている。侵入するとした
ら・・天井か、窓か。
と彼は鼻をちょっと抑えて眉をひそめた。
(・・・ん?この臭いは・・・)
ー エピソード8へ続く ー
