「『Black Widow』、いやなものを思い出した」
                   「先輩、それってー」
                   「そうだ、恐ろしい魔女の集団だよ。『Black Widow』、黒後家蜘蛛(クロゴ
                   ケグモ)、全身真っ黒で背中に赤い模様がある毒蜘蛛。雌は交尾後雄を食べ
                   る事からこの名がつく。美貌と巧みな話術で男を誑かし、次々と命を奪う。
                   彼女らの狙いは「金」だ。」
                   田中は身震いをした。
                   「そんなお金のために人殺しなんて」
                   「ふん、金のためだったら人殺しだって何だってするさ、極悪人はな。特に
                   この魔女どもは、容赦ない。ボスの女は捕まり、他のメンバーも一網打尽
                   だった。」
                   「でも、そのボスは脱走してー」
                   「きっとまた暴れるぞ。新しいメンバーを従えてな」
                   「ねえ、先輩ー」
                   吉羽は田中を見た。
                   「この前捕まえた女もこんな感じでしたね。あれも男性たちを殺して行っ
                   た」
                   「ああ。だが、『Black Widow』はあんなもんじゃねえぞ。もっとえげつな
                   い。このまま放っておくと大変な事になる。俺達だって見過ごしたりしたら
                   沽券が廃るってもんだ」
                   「確かにこっちの方が厄介ですね。あー、やだやだ」
                   田中は吉羽の後について部屋を後にした。

                   郊外のさらにまた外れた場所に小さな建物が建っていた。
                   赤い屋根に小さな煙突。そこには小さな部屋があって幼い子供が数人寝息を
                  立てていた。
                   ロッキングチェアーを揺らしてした老人は窓を見つめ、はあと息を吐いた。
                   「また奇跡が起きないかのお・・」
                   「まだ言っているんですか」
                   老人は老女の言葉に、こう続けた。
                   「もう伝説となってしまったのかの。おかげで身寄りのない子供達を養う事
                   ができた。でももう底をつきそうだ。・・・もう一度助けて欲しいものだ」
                   老人はよっと立ち上がり、窓に向かって呟いた。
                   「戻ってくるのを願っておる。きっとまた助けてくださる」
                   「だといいですけどねえ」
                   老女も同じように夜空を見上げた。

                   健一はじっとカードを見つめていた。「黒蜘蛛」の封筒に入っていたもの
                  だ。
                   それには同じように蜘蛛のイラストが描かれ、「Black Widowより愛を込め
                  て」とあった。
                   何も書かれていなかったが、その絵だけで分かった。
                   (宣戦布告ってヤツか。また多くの血が流れるのか?何とかしなくては
                   な・・)
                   健一はそれを内ポケットに仕舞い、入り口から外に視線をやるとため息をつ
                   いた。







                                fiction