城嗣は立ち上がり、ドアを開けようとしたがビクともしない。体当たりをして
                 もダメだ。
                  『あはははは!そこで仲良くあの世へ行くんだね!』
                  「何っ?」
                  城嗣は振り向いた。そして同時に駆け寄った。
                  「・・・大丈夫か!」
                  彼は倒れているリサを抱きかかえた。
                  するとシューっという音がして天井のあちこちから白い煙が噴射されてきた。
                  「・・・(くそっ毒ガスか)」
                  城嗣は鼻を押さえたが、耐えきれずに咳き込んだ。やがてリサが目を覚まし、
                 同じように鼻を押さえ、辺りを見渡し、懐から小型の装置のようなものを取り出
                 し、何かいじると、それをドアに投げつけた。彼女は彼を伏せさせ、爆発が治る
                 と彼を支えて立ち上がった。
                  「さ、行くわよ」
                  「・・助かったぜ」
                  「安心するのはまだ早いわ」
                  「そうだな。あいつらはどこ行った」
                  「それより逃げるわよ」
                  2人が廊下を出た時だ。
                  「待ちな!」
                  女たちが音を聞きつけて戻ってきたのだ。
                  城嗣はリサの手を取り、駆け出した。
                  「逃がすか!」
                  女の一人が何かを投げた。城嗣はとっさに目を押さえたが、激痛が走った。
                  「・・うっ・・」
                  女は銃を構え、城嗣に狙いを定めた。
                  「ダメ!」
                  銃声が聞こえ、城嗣に抱きついたリサはズルズル・・と下に倒れ落ちた。
                  「・・・!」
                  城嗣はハッとして銃を向け、相手の銃を払いのけたが、彼女たちは逃げて行っ
                 てしまった。
                  「・・アリーチェ・・」
                  城嗣はしゃがんで彼女を抱きかかえた。健一と純子がやってきたが、何も言わ
                 ず彼の背中を見つめた。
                  「・・・おい、大丈夫か。目を開けろ、アリーチェ」
                  リサはうっすらと目を開けた。笑っているような表情だ。
                  「・・・ジョージ。こんな・・形で会うなんて」
                  城嗣はかすかに頷いた。
                  「・・・・あなたを探してたの。・・・おばあちゃんもいなくなって一人ぼっ
                  ちになったから・・あなたと暮らせたらいいなと・・・でも・・・」
                  リサ・・いや、アリーチェは一旦口をつぐんで続けた。
                  「寂しくて・・お腹が空いて・・死のうと川へ飛び込もうとした時・・あの人
                  たちに声を掛けられたの」
                  「Black Widowか」
                  「うん・・仲間に入ればひもじい思いをしなくて済む・・」
                  アリーチェはふっと笑った。
                  「まさか・・ジョージが警察官だなんてね。でも・・・心の中ではあなたに捕
                  まえて欲しかった。そうすれば・・こんなこと・・・ううっ」
                  「アリーチェ!・・もう何も言うな。病院へ・・」
                  アリーチェはかぶりを振った。
                  「いいの・・・ねえ・・なんで私だって・・わかった?」
                  「・・・髪とかは変えられても、瞳の色は変えられないからな。・・・君の青
                  い目が好きだった」
                  「・・・ジョージくん・・・好き」
                  「アリーチェ・・」
                  アリーチェは目を閉じた。城嗣はハッとして彼女を軽く揺さぶった。
                  「アリーチェ!・・アリーチェ!」
                  城嗣はじっと彼女を見つめたが、もうその目は開くことはなかった。彼は黙っ
                 て彼女を胸に抱きしめた。
                  健一と純子も何も言わず、じっと彼らを見守った。




                  誰もいない夕日の照らす海を臨む浜辺にアリーチェを抱きかかえながら城嗣が
                 やってきた。
                  彼は静かに波打つ光景をしばらく見つめ、やがてこう言った。
                  「・・・見てごらん、海だ。いつか、一緒に故郷の海を見よう・・」
                  そしてぎゅっと彼女を抱きしめた。
                  「きっと君の無念を晴らせてやるからな・・」
                  城嗣は顔を寄せ、目を閉じた。










                              fiction