署内の資料室。
調書をパラパラめくっていた城嗣はふと顔を上げ、自分をじいっと見ている佳美を
見た。
「・・・なんだよ」
「ねえ」
「ん?」
「アリーチェって誰よ」
城嗣は眉間にしわを寄せて彼女を見た。
「なんでお前が知ってんだ」
「寝言で言ってた」
城嗣はエッという顔をした。
「・・ゲッ・・マジかよ。・・・ってなんで知ってんだ。いつ俺が寝てたよ」
「休憩室へ行ったらソファで寝っ転がってるからさー。起こさないで静かにしてた
のに」
佳美は考え込む城嗣を見て腕を組んで睨んだ。
「もうっ、誰なの?・・もしかして元カノ?」
「そんなんじゃねえよ」
「じゃあ誰よっ。・・あ、じゃあ、ママ?」
「お袋は違う名前だ。アリーチェというのはー」
城嗣は身を乗り出して自分を見ている佳美を見た。
「幼馴染さ。隣に住んでいた」
「・・それだけ?」
「それだけ。じゃあな」
城嗣は調書のファイルを元に戻すと、歩き出した。
「もう、待ってよ。話終わってないよ」
「終わった」
「浅倉くん!」
「・・アリーチェは・・」城嗣は歩きながら話し出した。「両親が早くに死んでお
ばあちゃんと2人で住んでいた。でも時々俺は彼女を家へ呼んで一緒に遊んだ
りし
てた。お袋のことを母親のように思ってたかもなあ。・・・ある日お袋と親父が殺
されて一人になった時、彼女はいつも俺を慰めてくれた。私が付いている
から大丈
夫だよ、って」
「・・・」
佳美は俯いた。
「彼女の髪は栗色でカールしててとても可愛かったよ。綺麗な青い目をしていた」
城嗣はそこで話をやめた。そして何かに思いを馳せるように遠くを見つめた。
城嗣は静かに寝息を立てて眠る華音のそばで窓から外をぼんやり眺めていた。彼の
脳裏には例の黒い衣装を身にまとったリサという女がいた。
(・・君なのか?・・・もし君だとしたら、一体どうしてあんなところに・・・)
リサは古びた建物の壁に寄りかかってじっと目を閉じていた。
が、目を開くと懐から鎖の付いたロケットを取り出し、それを開いた。そして彼女
はそれを見つめ、少しだけその青い瞳が揺れたが、頭を振った。
(・・フッ・・私ったら・バカね)
リサはそれをしまい、建物の中へ入っていった。