車は止まると、後部座席から本条警部が降りて来た。ぱりっとしたスーツ姿
がいっそう彼女のなりを表していてやはり近寄り難い雰囲気を漂わせている。
「鷲尾さん・・ですね」
「これはこれは、警部さんが直々にこんなところへ」
「近くへ寄ったものですから」
皐はちらと中を見て言った。
「1人ですか」
「えっ」
「いるでしょ、もう1人」
健一はああ、という顔をした。
「ジョー・・いや、浅倉警部補は見回りに行ってます」
「1人で?」
「いえ、同僚とですよ。なぜそんな事を訊くんです?」
「訊いて悪いのですか」
「え、いや・・」
「いつも一緒にいるようですから、あなた方は。それで訊きました」
健一が何も言えないでいると、皐はほんの微かに笑みを浮かべると、こう
言った。
「それでは、これで失礼します」
皐は車に乗り込み、そしてそれは静かに走り去った。
健一は頭を振った。
「やれやれ、どうも女は苦手だなあ」
「何が、苦手ですって?」
「えっ?」
振り向くとコンビニの袋らしきものを持った純子が立っていた。
「もう、何突っ立ってのよ、健ったら」
「今ー」
「あら、ジョーは?」
「見回りだ、もうすぐ帰ってくるだろ。ったく、みんなあいつがいないのを
訊くんだから。そんなに俺だけいたらヘンか?」
「だって、いつもあんたたち一緒じゃないの」
「・・あ、そう・・・」
そこへパトカーがやってきた。そして城嗣が降りて来て中へ入って来た。
「ちぇっ、遅くなっちまった。腹減ったな」
城嗣は純子の持っているものをちらと見るとこう言った。
「またそんなものかよ。今作ってやるからちゃんと食ってけ」
「あらー、本当?悪いわね。ジョーはいい奥さんーじゃないか・・」
健一は純子を無視したように言った。
「さっき、例の女性上官が来たんだ」
「ここへ?」
「ああ。なぜかお前のこと会いたがっているようだったぞ」
「ふん、別に会いたかねえや」
「ジョーったら早速目をつけられたの?」
「何しろ”不良警官”だからな」
「ふんっ。作ってやんねえぞ」
「はいはい」
健一と純子は顔を見合わせて椅子に腰掛けた。
やがてぷ〜んといい香りが漂って来た。そして健一と純子は、まるでお腹を
すかせた子どものように目の前の光景を眺めた。
いつの間にか通りも人気(ひとけ)がなくなり、空には月がやけに透き通っ
た輝きを放っていた。
