やがて甚平はまた戻る事になった。
3人は甚平を見送りに出たかったが、何時何時(いつなんどき)奴らに見つかる
か解らない。
彼らはその場を動かずに彼を見守った。
「大丈夫か、もし奴らに見つかったらー」
健一がそう言うと、甚平はウインクした。
「そんなヘマはやらないよ。」
「気をつけてね。」
「うん、じゃあね。」
甚平が出て行くと、慌てて純子は後を追った。が、もう彼の姿はなかった。
「あら・・・もういない。甚平ったら、アレを使ったわね。」
「仕方ないさ。姿を消すのに手っ取り早いからな。・・まあ、もっとも無闇に使
うなとは言われているけど。」
彼らは再び、何事もなかったように仕事を始めた。
ある古びた屋敷に戻った甚平は、そうっと中へ入り、そしてふうっと息を吐い
た。
「おい。」
「ううっ」
甚平はドキッとして恐る恐る振り向いたが、竜がいたので、ため息をついた。
「・・何だ、竜か。脅かすなよ・・」
「何だ、とは何じゃい。人をお化けみたいに言いおって。」
「お化けみたいに出てくんなー。心臓が飛び出るかと思ったよ。ったく、竜は
ホントに気が利かないんだから。」
「それはそうとどこ行ってたんだ?いないから心配したぞい。」
「うん、兄貴たちに会って来たんだ。」
「・・えっ、健たちにか?」
「うん。」
「そっか、会えたんか。元気だったか?」
「うん、変わらなかったよ。ほとんどね。一つだけ違った事があったけど。」
「違った事?」
「そうそう、あのねー」
そこで甚平は話すのをやめた。奥の方で話し声が聞こえて来たからだ。
「・・アサクラの息子が?」
「ええ、居場所も突き止めました。」
「でかしたぞ。」
甚平と竜は顔を見合わせた。
「今、アサクラって言った?」
「アサクラって確かー」
「おい、そこで何をしている。」
「あっ」
2人はやってきた男達を見て立ち止まった。
「いえ、ただ通りかかっただけでー」
竜は行こうとしたが、甚平はこう言った。
「あの・・アサクラって聞こえたんですけど・・」
「あ?聞いてたのか。」
「おい、知ってるのか?」
「ううん。だって突然日本系の名前を聞いたからさ。だってここいろんな国の人
たちがいるじゃないですか。」
「アサクラはな・・・ここのボスだった。」
「えっ!」
「まさかジョーがーうぐっ」
「竜、黙って。」
竜は甚平が口を押さえたので目を白黒させた。
「しかし死んだ。だいぶ昔だ。そうさな・・・もう10年くらい経つか。な、
おい。」
「そうだな、10年だ。」
「死んだの?病気か何か?」
「組織の者達が殺した。」
「・・・。」
「裏切り者は消す、それがここの掟だ。」
「で、そいつの息子がまだ生きているという情報があった。いいか、この事は外
部に漏らすな。もし漏れたりしたらー」
男は銃でこめかみを撃つマネをした。
「消えてもらうからな。」
「解ったな。」
甚平と竜はこくんこくんとうなずいた。
「解ったら持ち場へ戻れ。」
「し、失礼します!」
2人は言うか早いか脱兎のごとく駆け出した。
男達はそんな彼らを見て、何やら目で合図した。
しばらく走った甚平と竜は誰も追ってこないのを見て立ち止まり、壁に寄りか
かった。
「はあ・・どうなるかと思った。」
「だけんど・・・知らんかったわ・・」
「オイラだって。・・・という事はさ・・ジョーの兄貴たち知られちゃってるっ
てこと?」
「そうだな。」
「こうしちゃいられないなあ。オイラたちだけでも何とかしなくちゃ。」
2人は顔を見合わせ、うなずき合った。