「あー、むかつくっ」
                純子はパンを頬張ったまま、そう言った村上佳美を見た。
                「まあ何よ、佳美ったら。およそ警察官らしくないせりふね」
                「どうして浅倉くんがあの女と組まなきゃいけないのよっ」
                すると隣にいた天道美香が言った。
                「知らないわよ」
                「まあ、あいつは一応上層部に近いし・・」
                健一がそう言うと、美香が言った。
                「ま、鷲尾くんじゃ力不足だからって思われたのかもねー」
                「え?」
                「良かったわ、健が力不足で」
                「・・お、おい、ジュン。ドサクサに紛れて変な事言うなよ」
                「あら、本当の事でしょ。健みたいなトンチキは女性の相手はムリよ」
                佳美はふうとため息をついた。
                「女は愛嬌がないとダメだと思うな。あんな氷みたいに冷たいんじゃ」
                「佳美ったら、聞こえたら大変よ」
                「大丈夫よ。ここの人たちは口が堅いでしょ」
                健一と純子は思わず顔を見合わせた。



                パトカーは警察署の前で止まった。
                「よく調べたもんだな。あんなところを拠点にしているとは」
                「連中のやりそうな事です。古い建物を隠れ蓑にしてじっと鳴りを潜めているので
                す」
                城嗣と皐は、7区の情報を元に組織がアジトとしているらしい場所へ下見に行って
               戻って来た。
                なるほど、街の人々はただの廃墟と化した建物、としか思わないだろう。
                中に入った城嗣はある場所へと歩いた。
                「どこへ行くのです?」
                「迎えに行くんだ」
                「迎え?」
                「娘だ」
                「娘・・さん?」
                言うか否や、彼は奥まったところにある託児所に向かった。ドアを開けると子ども
               の声で溢れかえって賑やかだ。
                城嗣は子どもを看ている保育士らしき女性に近づいた。エプロンをした小太りの優
               しそうな人だ。
                「あら、浅倉さん。(奥の方へ声を掛ける)華音ちゃ〜ん、パパが迎えに来たわ
                よ」
                するとほどなくして華音が駆けて来た。
                「パパー」
                そしてしゃがんだ城嗣の胸に飛び込んで来た。
                「今日もいい子にしてたか?」
                「うん!」
                華音は城嗣を見上げてニコニコした。そんな彼女を見つめていた皐は微かに笑みを
               浮かべた。この子はパパと会えてとても嬉しそうだ。きっと大好きなんだろう。
                そんな彼女はじっと華音が自分を見たので、ほほ笑んだ。
                城嗣はああ、という顔をした。
                「この人は本条皐さん、と言って、パパと一緒にお仕事をしてるんだ。華音、挨拶
                して」
                「・・・こんにちは」
                「こんにちは」
                城嗣は立ち上がった。
                「さあ、帰ろうか。ありがとうございます」
                女性はにこっとした。
                「ええ、お気をつけて。華音ちゃん、また明日ね」
                「うん、パイパイ」
                3人は部屋を後にして廊下を歩いた。
                しばらくして皐は言った。
                「華音ちゃん、と言うのですか?可愛いお嬢さんですね。知りませんでした、あな
                たにお子さんがいるなんて」
                「それは調書に書いてなかったのか?」
                「ふふ、見落としたかも」
                「・・ふーん」
                皐はちらと華音を見たが、すぐに前を向いた。
                彼女を見る目は優しかったが、何だか寂しげに見えた。
                城嗣はそんな皐が気になったが、話し掛けてくる華音の方を向いた。

                そして彼らは署を後にした。
                「それでは私はこれで」
                「そうか。それじゃ気をつけて」
                「ええ。ありがとう」
                城嗣は相変わらずそつのない皐の後ろ姿を見つめた。が、何だかいつもと違う感じ
               がしていたが、彼は華音を連れてパトカーに乗り込んだ。









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