「PCPだ。」
「PCP?」
「幻覚剤。話が上手く出来ない、感覚が麻痺して鈍くなる」
「ああ、まさにその症状ですね。どの人たちもろれつが回って何言ってんだかわか
んないし」
「この薬の恐ろしいところはー」
吉羽は書類をバン、と机に投げた。
「心臓発作や窒息、脳溢血等を起こす事だ。場合によっちゃあ、死んでしまうだろ
うなあ」
「これを例の組織の連中の仕業、と」
「それしかあるまい」
城嗣は所長室前にいた。窓際に立ち、外を眺めていた彼は、ドアが開いたので振り
向いた。
そしてそこから出て来た皐を見た。
「こんなところで何を?」
「俺は所長に呼ばれて来ただけだ。それにそれは俺のセリフでもあるぜ」
皐はふと笑みを浮かべた。
「今に解ります。恐らく、貴方も同じ話かと」
「え?」
「それじゃ。」
城嗣は黙って彼女の後ろ姿を見つめた。相変わらず隙を見せない態度。彼女を狙う
男がいたとしたらきっとてこずるだろうなと彼は思い、ドアを叩いた。
「浅倉です」
「入れ」
城嗣は後ろ手にドアを閉め、所長の座っているところへ進んだ。
「例の薬の正体が判明した。PCPだ」
「ふーん、本格的じゃないですか」
「さすがに詳しいな」
「・・・頭にあっただけですよ」
所長は笑った。
「それなら任せても安心だな」
「任せる?」
「実は、7区の署長から直々の依頼があってね、新しく来た本条皐と組んで組織の
アジトを洗って欲しいんだ」
「・・俺が彼女と組むんですか?」
「そうだ。彼女がそうして欲しいと頼んだそうだよ」
「どうして」
「お前の腕を見込んだんじゃないのか?」
「・・・・」
「ま、彼女のような落ち着いた人物となら少しは大人しくなってくれるだろうし
な」
所長はそう少しからかうように言ったが、城嗣は真顔だった。
一体どういう事だ?何か意図でもあるのか?
城嗣はじっと空(くう)を睨んだ。
