数日後。
パトカーがパトロールしていたが、城嗣の隣には佳美がいた。
彼女は仕事中、というのにも関わらず、まるでデート気分で浮かれそう
になっていたが、彼の前では平静に努めていた。
しかし彼女はやはり彼と一緒という事でこうなってしまった。
「私、決めたわ!」
「は?何が?」
城嗣は突然大声出すなよ、という顔をした。
「私は絶対に夫には優しく、意地悪しないで支えてあげようと思う
の。」
「そりゃいい事だ。その夫とやらはさぞかし安心するだろうよ。」
「だってね、信じられないもの・・。自分の愛する人をそんな風に邪険
にしたりするなんて。」
「男の方がすげえ乱暴者でイヤなヤツだったらどうすんだよ。」
「そんなことないわ・・。彼は・・・すごく優しくて女性を大切にして
くれるもの・・。」
城嗣は自分をじっと見ている佳美を見た。
「俺の顔に何かついてるのか?」
佳美は慌てて顔をそらした。
「う、ううん、何でもないっ」
城嗣はため息をついてブレーキを掛け、エンジンを止めた。
「着いたぜ。」
佳美ははっとして降りて城嗣の後について行った。
目の前には広い草原が広がっており、風によって草がゆらゆらと揺れて
いる。
「・・ここなの?浅倉くんが好きな場所って。」
「ああ。」
城嗣は適当な場所に腰掛け、そして横になって伸びをした。
「・・こうすると風が通ってスーッと体が楽になる。空を眺めている
と、自分がまるで鳥になったみたいに飛んでいるような気になるん
だ。」
佳美も同じように、彼の隣で寝そべった。
「ふ〜ん、鳥ねえ。・・・・・そういえば・・最近鶏肉食べてないな
あ。」
「・・え?・・・・ちぇっ、ロマンがねえなあ。」
城嗣はそう言うと、目を閉じた。
「何よお・・”腹が減っては戦は出来ぬ”って言うでしょ。」
佳美は横を向いて彼を見た。
「・・浅倉くん?」彼女は体を起こした。「もうっ、寝ちゃったの?」
彼女はじっと城嗣の寝顔を見つめた。そしてこんな事を言った。
「・・・こうして毎朝眺められたらいいのにな・・・」
しかし佳美はハッとして頭を振った。
「いやん、私ったら。」
佳美はまた彼の顔をじっと覗き込んだ。そしてそうっと近づけて唇を重
ねようとしたが、彼が起きそうになったのを見て慌てておでこにキスをし
た。そしてごろんと寝転び、空を見つめつぶやいた。
「・・・私ってバカだな。せっかくのチャンスだったのに。」
城嗣はうっすらと目を開け、笑った。そして手を伸ばして彼女の手を
握った。
「本当に馬鹿だな、お前。」
佳美はドキッとしたが、握り返した。
2人は目を閉じたまましばらく心地よい風を感じていた。
やがて城嗣は手を離し、立ち上がった。
「さ、そろそろ戻るぞ。」
「あん、待ってよ。」
佳美はさっさと先にパトカーへ向かって行く彼の後を慌てて追った。
そして2人を乗せたパトカーは静かに今来た道を戻る形で進んで行っ
た。
ー 完 ー