パトカーの近くにいた城嗣は腕時計が光っているのを見て腕を上げた。
               「・・健か?」
               純子は顔を上げた。
               「・・・モールス信号か。・・・”人質解放・・・我、代わりに捕らえられて
               いる。応援たのむ・・・”・・・・何?」
               「・・・ジョー、健は・・・」
               「あいつ、人質を解放して自分がその代わりになりやがった。」
               「・・何ですって?」
               「ジュン!」城嗣は、駆け出そうとした純子の肩を押さえた。「待て。」
               「だって、健がー」
               「奴なら大丈夫だ。・・とにかく待とう。応援が間もなく来る。」
               「・・・・。」

               城嗣は所長に連絡を取った。人質は無事なものの、健一が一人突入して代わ
              りになった事態が起きたからだ。案の定、所長は驚いた様子だった。
               『・・何?鷲尾が?』
               「ええ。」
               『そうか・・・』
               「犯人は銃を持って脅しているハズですよ。」
               『むやみに突入できんな・・・。しかし、一刻の猶予もできん。』
               所長はしばらく考えているらしく無言だったが、やがて言った。
               『浅倉、お前の腕に賭けよう。お前の任務はー』

               男はじっと黙って窓から動かずに外の動きを伺っていた。健一はそんな男の
              様子を見ていたが、視線を戻して目を閉じた。
               「お前・・若そうだが・・仕事は?」
               「・・・ニートだよ・」
               「ふーん、そうか。」
               「わ、悪かったな、お前らみたいのに何が分かる。」
               「別に働け、とは言わん。でも親御さんはいるんだろ。こんな事して、悲し
               ませたらいけないなあ。」
               「う、うるせえ、お前なんかに何が分かるんだ。」
               「そうだな、俺は両親ともにいないからな。2人とも死んだ。」
               「・・・・。」
               「もう平気だが、時々思う事がある。今親父やお袋がいたらどうするだろ
               う、何て言うだろう、なんて。」
               健一はふっと笑った。
               「・・・でも俺の友人も親がいない奴ばかりだからな。同じ境遇で今まで
               やってきた。だから、特に寂しいなんて感じた事はあまりない。だけど、両
               方いるお前は幸せだと思う。・・・何でも言える相手がいるからな・・。」
 

                  
               その建物から数キロ離れたところに機動隊が待機していた。そして木の上に
              いた城嗣はライフルを構え、狙いを定めた。犯人の手を撃ち、銃を落とす作戦
              だ。
               周りの警官たちはじっとその先を見守った。彼だから安心はしているがやは
              り緊張するものだ。
               しばらくの間の後、銃声が1発辺りに響いた。
               「突入!」
               建物の周りにいた隊員たちに合図が渡ると、一斉に中へと流れ込んだ。
               純子が走り出すと、城嗣も飛び降りてついて行った。

               中では取っ組み合いの末、犯人の男を取り押さえていた。縄を解かれて自由
              になった健一はゆっくりと外へ出た。
               彼は袖の埃を払い、いたって元気そうだ。なので、城嗣は笑みを浮かべたも
              ののこう嫌みっぽく言った。
               「・・・ったく、ひやひやさせやがって。」
               「健!」
               純子は思わず走り出し、健一に抱きついて拳で彼を叩いた。
               「バカ!健のバカ!」
               「・・・ジュン・・・」
               健一は息を吐いてジュンの肩に手を置いた。
               「ごめん。」
               警官たちははあと安堵の表情をした。そして歩いて来た健一たちを迎えて彼
              らはそのままそこを後にした。





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