純子はある建物の前でバイクを止めた。タクシーが止まり女性が降りて中へ
             入って行ったからだ。
              それは分譲マンションだった。
              彼女は降りて上を見上げた。
              (あの人はここに住んでいるのかしら。)
              しかし純子ははっとして隠れた。女性が出て来たからだ。
              そして彼女はそのまま歩き出し、純子はそっと尾行した。
              ところが急に女性は走り出し、純子ははっとして追いかけた。しかし角を曲
             がったところで女性の姿を見失ってしまった。
              「・・・・。」
              純子は足を止めてはあとため息をついた。そして行きかけてやはり白バイで
             走っている佳美を見て彼女を呼んだ。
              「佳美ー!」
              「あ、純子。」
              佳美は純子のところへ来るとエンジンを切った。
              「あの女は?」
              「・・見失ったわ。なんて逃げ足の早い・・。」
              「そう。・・・あの人がそうだって私、直感で分かったわ。」
              「そうなんだ。」
              「だってあの目つき、ただ者じゃないわよ。なんか、そう、まるで獣の目みた
              い。」
              「獣・・ね。」
              そして純子はあっという表情をした。
              「あら!やだ、私白バイ置いて来ちゃった・・」
              「えー」
              2人は引き返してさきの分譲マンションに向かった。そして白バイを見て純子
             は安堵の顔をした。
              「ああ、良かった。あんなところに置いてたら怒られちゃうわ。」
              しかし彼女達の足が再び止まった。あの女性が立っていたからだ。
              「私を追いかけてどうするの?お巡りさん。」
              「・・・・・。」
              「私を捕まえる?・・・でも、今私は何もしてないから逮捕できないわね。あ
              あ、それともー」
              彼女は意味ありげに2人を見た。
              「お望み通り彼に何かしましょうか?逮捕できるように。」
              「何ですって?」
              「いい事?これだけは言っておくわ。私はかけがえのない友として彼を好きな
              の。貴女を絶対に許さない。どこまでも追いつめるわよ。」
              女性はふふんと鼻で笑った。
              「受けて立つわよ。」
              彼女は踵を返し、行ってしまった。
              純子は腕組みをしてしばらくその後ろ姿を見ていたが、白バイの鍵を掛けた。
              「帰りましょ。」
              「うん・・・。ねえ、純子?」
              「え?」
              「あなた・・この前さあ、どさくさに紛れて変な事言ってなかったあ?」
              「えっ、あ、あら、何の事かしらー」
              「もうっ!」


               交番ではいつもの3人組が軽い食事をしていた。それは例のごとく純子がコ
              ンビニで買って来て、城嗣が少しばかりの野菜を煮込んだスープを作った。そ
              して健一は、と言うとそれがごく当たり前のように特に気にせず美味そうに平
              らげた。
              そして食事が終わると少しくつろいだが、健一は外へ行ってしまい、城嗣と純
             子の2人だけが残った。やがて純子が言い出した。
              「いい?ジョー。そんな訳だからむやみに出歩いちゃダメよ。戸締まりもちゃ
              んとして。」
              城嗣はまたそんな事かという顔をした。
              「ちぇっ、村上と同じ事言ってやがる。」
              「あら・・。ねえ、ジョー。」
              「・・あ?」
              「貴方・・彼女の事、どう思ってるの。」
              「彼女?」
              「佳美よ。」
              「・・別にー」
              「もうっ。いつも健と一緒にいるから感化されちゃったわけ?」
              「何だよ、それ。」
              「いい?佳美は本気なんだから。本当にジョーの事、心配しているのよ。それ
              にー」
              「え?」
              「いいわ、貴方も健みたいにならないようにせいぜい気をつける事ね。」
              純子はそう言うと奥へ引っ込んでしまい、城嗣はやれやれと頭を振った。
              そこへ健一が戻って来た。
              「あー、参ったなあ。くしゃみ連発だ。風邪引いたかな・・。」
              健一は城嗣がじっと自分を見ているので不思議そうに彼を見た。
              「どうした?」
              「・・おめえと一緒にされてたまるかっ」
              「・・・は?」
              健一は行ってしまった城嗣に特に気に留めずにコップに水を注いで飲み干し
             た。






                          fiction