それはある少し肌寒い日の午後だった。
              彼が一人で交番の前に立っていると、一人の女性がフラフラと歩いているのが
             見えた。
              城嗣はその女性が倒れそうになったのを見てとっさに出て行って彼女を支え
             た。
              「・・・ごめんなさい・・。」
              彼は彼女にどうしたのかと尋ねた。聞けば、昨夜から何も口にしていないとの
             事だった。
              その日はとりあえずちょっとしたものを作り、彼女は良くなったとかで一旦
             帰った。
              が、彼女はその後やってきたが、頬や腕などに傷や痣があった。
              奥へ連れて行き、椅子に座らせて事情を聞くと、付き合っていた男が別れ話を
             したとたん、突然暴力を振るったのだと話した。
              城嗣はDVだと思い、彼女を介抱してとりあえず匿うことにした。
              彼女は翌日にはお礼を言って帰ったが、2、3日後には彼とはもう一緒にいら
             れないと涙ながらに訴えた。城嗣はその男に連絡して対応をしようとしたが、彼
             女は貴方に守って欲しいと言い出した。

              やがて、自分の料理に美味しいと言って頬笑む彼女を見てその可愛らしい雰囲
             気に知らないうちに惹かれていった。
              それから2人は幾度となくプライベートで会うようになり、それは端から見て
             もとても微笑ましく映った。

              しかしー。
              その女性はある日突然、彼を束縛するようになった。
              他の女性を見てはダメ、話もするな、交番以外にどこかに行くときは、ちゃん
             と行く先と戻る時間を言え、と要求してきた。
              城嗣はある日、彼女に言った。
              「悪いけど、君が何を考えているのか分からなくなった。これじゃ仕事になら
              ない。少し自由にしてくれないか。」
              「ダメよ。貴方は私のものなんだから。私を悪夢から救ってくれた王子様なの
              よ。(抱きつく)・・・ねえ・・・もう私たち、もっと深い関係にならない?
              だって・・もう愛し合っているんですもの。」
              城嗣は、彼女の手が自分の下腹部に触れようとしたのを見て払い除けた。
 
              女性はそれ以来、彼の前にたびたび姿を現した。
              そんな中彼にはとんでもない事実が署の方から耳に入って来ていた。
              女性にはDVを受けた事実は全くなく、彼女の作り話だという事が判明したの
             だ。
              つまりは、暴行を受けたというのは彼に近づくためのまったくのデタラメだっ
             たのだ。自分で自分を傷つけたのである。
              女性はことあるごとに彼に迫り、性的な嫌がらせをするようになった。
              城嗣はその事で精神的にダメージを受け、一時は休職にまで追い込まれた。
              彼は女性にはとても優しく紳士的だったので、署でも女性職員から人気があっ
             た。
              それが今回、裏目に出て事件に巻き込まれてしまったのだ。


              佳美は城嗣が心配だった。
              彼は以前、昔付き合っていた女が自分を苦しめた、という話をしていたのを思
             い出して、とても胸が痛くなる思いだった。
              (・・・・酷いわ。そうして彼にそんな酷い事が出来るの?・・どうして普通
              に愛せないの?・・私だったらそんな事絶対に・・)
              佳美はミニパトカーでパトロールしていたが、ふと視線を動かした。
              近所の小学生と思われる子供達と話をしている健一と城嗣を見つけたのだ。
              彼らは女性ばかりでなく子供達にも人気がある。子供達の方も、お巡りさんと
             いうよりは気楽に話せる優しいお兄さんという風に思っている。
              隣に座っていた美香はそんな彼女を見たが、敢えて何も言わずに同じように彼
             らを見た。
              佳美はぎゅっとハンドルを握った。
              (浅倉くん、私きっとその女を捕まえてやるからね。貴方を苦しめるヤツなん
              か絶対に許さない。)
              2人はそのまま通り過ぎた。





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