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                〜エピソード1 パトカーVS暴走車のカーチェイス!〜




              大きな通りの路肩に1台のパトカーが止まっていた。
              このユートランド国立警察の文字の入った車は、普通のパトカーではな
             かった。
              やがて猛スピードで走って来る1台の車の姿があった。バックミラーか
             ら目を離さないで見ていた浅倉城嗣はそのままの姿勢でこう言った。
              「健、クズが来たぜ。」
              「酷いスピードだな。」
              車は速度を落とさずにそのまま横を通り過ぎた。
              「よし、行こう。」
              パトカーは車を追いかけた。前の車は遥か遠くへ行ってしまっている。
              「ずいぶん飛ばしていやがる。バカか。」
              「80超えたな。」鷲尾健一は無線を取った。「そこの車、止まりなさ
              い!止まれ!」
              車の男たちはサイレンと無線の声に驚いて振り向いた。
              「うわっ、お巡りだっ」
              「へん、巻いてやらあ。へなちょこポリ公め。」
              そう言うとドライバーはアクセルを踏み、更に加速した。
              「逃げる気だ。」
              「そうはさせるか。行くぞ!」
              「ああ、ジョー、任せた。」
              城嗣はアクセルを踏み、加速して前の車より速い速度で追いかけた。
              「おい、お巡りついてくるぞ!」
              「・・・マジかよ。近づいて来る。何キロ出してんだ?」
              するとパトカーは横切ったかと思うと追い越し、急に前に回って立ちは
             だかるように止まった。
              「うわあああああ〜!!」
              男は慌ててハンドルを切るが、大きな木に衝突して動かなくなった。
              健一たちはパトカーから降りたが、男たちも外に出て、慌てて逃げ出し
             た。
              「待てっ!」
              2人は男たちを追いかけた。そして健一は一人を掴むと、地面へ叩き付
             け、もう一人の男を城嗣が先回りして脚蹴りをした。
              男たちは壁に寄りかかり、2人の警官を見上げた。
              「・・お、お巡りが市民を殴ったりしていいのかよ!訴えてやるから
              な!」
              「それに、違反してんじゃねえかよ、そっちが!」
              「黙れ!何が訴えるだ、お前らみたいな糞ガキが市民を名乗る資格なん
              かねえよ。」
              「免許は。」
              「・・・・・・・・。」
              「無免許か。」
              「違うよ!家に置いてー」
              「ウソ付くな!」
              城嗣は男の襟元を締め上げた。
              「く、くるしい〜・・・」
              「とにかく一緒にくるんだ。お前もだ。」
              健一はもう一人を立たせた。
              2人は男たちを乗せ、パトカーはその場を去った。


              一方、幹線道路を1台の白バイが走っていた。婦人警官が乗っている。
             名前は白鳥(しらとり)純子、バイクの腕前は超一級である。彼女はどん
             な小さな違反も見逃さない。その目は鋭く、他の婦警より厳しいとの評判
             だ。
              そんな彼女はある車を見つけると、ぴったり後ろに付いた。そしてハン
             ドマイクをオンにし、その通る声で言った。
              「ナンバーララララの運転手さん、脇に寄って止まりなさい。」
              車はウインカーを出し、素直に従った。
              車が止まると、純子もバイクを止め、近づいた。
              「どこか急用なのかしら?飛ばしてるわよ。」
              「いやあ、そうなんっすよ〜。遅刻しそうなんで。」
              「でも速度は守らないと。」
              「見逃してくれよう、ほんと、マジ、ヤバいって。」
              「ダメです!免許証。」
              男はしぶしぶ免許証を出し、彼女に渡した。
              「ねえ、いいじゃんかよ、見逃してくれよ、姉ちゃん。もうやんない
              よ。」
              すると純子はキッと男を睨みつけた。
              「姉ちゃん?なあに、その言い方!姉ちゃんなんて、あの2人だって言
              わないのに!」
              「あの2って・・・?もしかして彼氏?」
              純子はふんという顔で書類に書き込んだ。
              「姉ちゃん、2人も彼氏いんの?やるね(バインダーで頭を叩かれる)
              いてっ」
              「ここ何キロが知ってる?」
              「・・・55?・・・ねえ、その彼氏ってさ、どういう人?同じ警官
              だったりして。」
              「そうよ。」
              「・・へ、へえ・・・。」
              「何なら呼びましょうか?」
              「結構です。・・・お巡りが増えたら厄介じゃんか。」
              純子はくすりと笑った。
              「はい、それじゃこれ渡すから。近日中に振り込んでちょうだい。忘れ
              たらもっと延びるわよ。」
              「はいはい。」
              「それじゃ、安全運転で帰ってね。」
              純子はバイクに股がり、走って行った。


              所長室では、健一と城嗣の2人が所長の前にいた。そして城嗣の差し出
             した1枚の書類を見た所長は、彼を見上げた。それは始末書だった。
              「書いて来ましたよ。」
              所長ははあとため息をついた。
              「随分手際がいいな。(見る)・・・・・ふーん。スピード違反に、犯
              人を蹴り上げ全治2週間の怪我を負わせる・・・」
              そしてすっと健一が差し出したのを見た。
              「俺もです。」
              「・・お前もか。」所長は目を通した、「・・犯人殴打・・」
              そして書類を置いてこう言った。
              「もう、いい。戻れ。いいか、2人とも大人しくしてろ。」
              「失礼します。」
              所長は行きかけた2人に声を掛けた。
              「あー、待て。・・・あまり無理するな。」
              「はい。」
              健一と城嗣は出て行った。
              「やれやれ。・・・また用紙が足りなくなりそうだな。」
              そこへ職員がやってきた。
              「あの、所長。これ・・どうします?」
              彼が抱えているのは始末書の束だった。
              「・・いつのだ?・・いい、処分しろ。」
              「今年のですけど・・。」
              「いい。どうせまた増えるから。」
              「は、はあ・・」
              所長は立ち上がって窓から外を眺めた。
              下の方を見ると、1台のパトカーがちょうど走り去るところだった。
              「・・やれやれ、随分やんちゃな奴らを預かったものだ。・・あの男は
              あれから姿を見せないが・・」
              所長はしばらくして部屋を出た。



                             
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