『 ペンダント 』









              ギャラクター島と呼ばれたその島はあれからだんだんと元の風光明媚な島へと戻りつつ
              ある。時々画面に映るそれの景色は海の青と広々とした草原、そして色とりどりの建
              物。
              きっと観光客が詰めかけ明るさを取り戻していくだろう。

              よかった。戻ってきた者たちは心からそう思った。

              そして南部博士の部屋では健がいつものように報告を行っていたが、彼はこう博士の背
              中に言った。

              「博士は・・ご存知だったんですね。ジョーの事」
              健がマリンサターン号での話をした時、博士は少しも動じず頷きながら聞いていたのを
              思い出したのだ。
              「直感だよ」
              博士は窓から泳ぐ魚たちを眺めながら答えた。
              「いくらギャラクターとはいえ、ごく普通の一般市民にあのような残忍な行為をするは
              ずはないだろう、と」
              そして一旦置いて続けた。
              「ではなぜ彼らは殺されたのか?きっと只者ではないだろう。もしかしたら、ギャラク
              ターの関係者ではないだろうか?」
              健はじっと博士の背中を見つめた。
              「これはおそらく組織を裏切ったために殺られたに違いない。ーそう考えたのだ」
              「それで島から誰にも知られないよう連れてきたんですね」
              博士はやっと健の方へ向いた。
              「そうだ。ともすればジョーも狙われてしまうからな」

              ジョーといえば、ここユートランドに戻ってきてからはしばらくトレーラーハウスの自
              宅内で静養するよう言われていたのでそこにいた。まあもっとも、彼の性格から言って
              じっとしているはずはなく、時々は車をぶっ飛ばしていた。やれやれ、である。


              そして彼はだいぶ良くなったので博士のもとへ顔を見せに出向いた。
              博士はそんな彼を見ると微かに笑みを浮かべ、コーヒーを出した。
              そして目を閉じてコーヒーの香りに身を委ねているかのようなジョーに話しかけた。
              「元気そうだ。もういいのか」
              ジョーは博士を見上げた。
              「ええ。・・・ご心配おかけしてすみません」
              博士は笑った。
              「君の向こう見ずなところには慣れているよ。変わらんな」
              ジョーは口角を上げた。
              「博士にはいつも俺を助けてもらってばかりですね」
              「ジョー。・・君のご両親はきっと上の役職についていたんだろう。君がしているその
              ペンダント、中の写真を見せてもらった時にそう思ったのだが」
              ジョーはTシャツの下にあるペンダントを取り出し、ロケット部分を開いた。
              そこには、両親と自分が写っている。両親は2人ともスーツ姿であったが、ジュゼッペ
              はサングラスを掛けちょっと怖い顔をしてこちらを見ている。
              「君はお父さん似だな」
              「(笑う)ふ、そうみたいですね。そのおかげでギャラクターに追い回されましたよ」
              思えばジュゼッペは外出するときはいつもサングラスを掛けていた。単に日差しが眩し
              いからだと思ってたが、敵に悟られないようにしているためだったのか。
              それで自分がその格好をして狙われる羽目になろうとは。
              「だが、お母さんの芯の強そうな顔立ちにも似ているな」
              「お袋は・・きっとデブルスターの中心人物だったと思います。子供の頃、何かを投げ
              て訓練している様子を見たことがありますから」
              ジョーは視線を落としたが、再びペンダントを見つめた。
              「でもその頃はそれが何であるかわからなかった。俺はてっきり遊んでいるのかと思い
              自らも投げたいと言っていた。今思えば、きっとお袋は困っていただろうな」
              博士はじっとジョーを見つめた。
              「ジョー・・ご両親を恨んではいないか?」
              「・・え?」
              ジョーは顔を上げた。
              「悪の組織に加わってたなんて、内心は穏やかでないだろう」
              「大丈夫ですよ、博士」ジョーはしっかりとした目つきで博士を見た。「少なくとも子
              供の頃は楽しかったですし、2人とも・・自分を愛してくれましたから」
              博士は何も言わず、静かにうなづいた。



              ジョーはじっと考えていた。ずっとベッドの端に腰掛けていた彼は、そこへ横たわっ
              た。

              (恨みたければ、地獄へ行ってー)

              恨みなんか・・

              いや、恨んでいる。ギャラクターを、だ。
              親父とお袋を俺から奪った憎い相手だ。
              ジョーはバン!と拳をもう片方の手のひらで受け止めた。

              絶対に倒してやる。


              ジョーは足元を見下ろした。そして脚にすり寄せて甘える子猫のルナを抱き上げた。
              「そうだ、今日は特別なものを作ってやるぞ。お袋が作ってくれた料理をアレンジして
              やる。お前にも味わってほしいんだ」
              ルナは返事をするかのように小さく鳴いた。
              ジョーはそのままキッチンへと向かった。





                              ー 完 ー





                               fiction