『 お出かけ 』



                ジョーは窓から外を眺めた。そして開けた。
                するとスッと風が入り込み、彼の髪を優しく撫で、ふわりと波打った。
                日差しは強くなったが、まだ空気はひんやりする。

                「にゃー、にゃー・・」
                ジョーは足元を見てもぞもぞうごめいているものを抱き上げた。
                「よう、ルナ。おはよう」
                彼はおでこにキスをした。
                「今日はいい天気だ、どこか行こうか」
                ルナはまるでジョーの言葉がわかるかのようにニャーと鳴いた。
                「よし、その前に腹ごしらえだ。おいで」
                彼がベッドから降りると、ルナは彼の後をついていった。


                ジョーはGー2号機に近づいた。
                そして左腕についているブレスレットを外すと、グローブボックス内にしまった。
                「せっかくのデートだからな」
                そしてそばをうろついているルナを抱き上げて、ドアを開けた。
                「よし、出かけよう」
                ジョーはハンドルを握り、アクセルを踏んだ。


                道路には車1台も走っていない。自分の青い車体だけだ。
                やがて車は丘の上にやってきた。
                ジョーはそこでブレーキをかけ、ルナを抱えて外へ出た。
                彼女を置くと、目の前に広がる草原に向かって駆け出した。
                「おいおい、あまり遠くへ行くなよ」
                彼は笑いながらゆっくり進んだ。
                ここはジョーにとってはお気に入りの場所だった。
                何かむしゃくしゃする時やちょっと一人になりたい時にはここへやってくる。
                無論、レース場でかっ飛ばす方がスッキリするが、やはり風に吹かれて自然を愛で
                ていると心が癒される。まるで故郷のように。

                ジョーは寝そべった。今日は雲ひとつない晴天だ。
                彼は目を閉じた。そしてそのまま眠りについた。


                うふふふ・・・・

                遠くで女の子の声が聞こえた。

                いやだ、まだ寝ているの?ジョージくんったら。

                「え?」

                ジョーは目を開けた。そして起き上がって見渡した。
                周りは黄色い花でいっぱいだ。
                あれ?花なんか咲いてたっけ?
                しかもそれはミモザだ。

                「・・・ルナ?どこへ行ったんだ」

                ジョーは立ち上がり、歩き出した。そして周りの光景を見つめた。
                どこか懐かしい感じがする・・。

                すると彼の目の前に男の子と女の子が花の中で遊んでいる姿が飛び込んできた。
                ジョーは女の子を見た。
                (・・・レナ・・ちゃん・・?)
                するとこの男の子は・・。
                そう、2人は幼い頃の自分と幼馴染のレナだった。
                しばらくジョーは笑あって楽しそうに花輪を作っている2人を見つめた。


                「にゃ〜、にゃ〜」
                ジョーは目を開けた。ルナが自分の顔を舐めている。
                ジョーはしばらく考えたが、やがて体を起こした。そしてルナを抱きき上げると立
                ち上がった。
                「やれやれ、夢見ちまったよ」
                しかも、子供の頃の自分たち。
                ジョーは微かに笑った。
                ルナは小さく鳴いた。まるで返事をするように。いや、単に鳴いているだけか。

                ジョーはルナを車内に離し、ドアを閉めてキーを回した。
                そして再びアクセルを踏み、道の上を走らせた。




                                ー 完 ー




                               gatta2019