『 思い出の 羽根手裏剣 』






                ベッドに横たわったジョーはズボンの裾を開けて1本の羽根手裏剣を手にした。
                そしてそれをじっくり眺めていた彼は、苦笑いをした。
                「まさかこの原型を作ったとはな・・」


                その日は家族揃っているという久しぶりの日だった。
                両親はギャラクターという組織の幹部として任務についている。
                だがそれは息子には知らされず、どこか遠くへ仕事に行っているということになっ
                ていた。
                幹部という役職柄、留守にすることが多く、時間でやってくる家政婦以外は幼い子
                供一人だ。

                そしてここの主人、ジュゼッペが息子ジョージと男同士、話でもしようと階段を上
                がっていたその時だった。
                「バン、バン!」
                突如銃声が鳴り響き、彼は思わず忍ばせている拳銃を手にし、ジョージの部屋へ向
                かった。
                「ジョージ!」
                彼は開いている部屋に入った。
                「大丈夫か!」
                しかし、当のジョージは振り向き、笑顔を見せた。
                「なあに?パパ」
                銃声はテレビから聞こえてきた。どうやらアメリカの西部劇らしい。保安官らが次
                々と男たちを倒している。
                「あ、ああ、いや・・・なんでもない」
                ジュゼッペはそっと拳銃をしまって何食わぬ顔をした。
                「ジョージ、そんなもの子供があまり観るもんじゃないぞ」
                「うん。でも、パパ。このガンマン、かっこいいよ!僕も大きくなったら、こんな
                風に悪いやつ倒したいな!」
                ジュゼッペは息子の屈託のない笑顔を見て、かすかに笑みを浮かべた。

                その後、ジュゼッペはジョージを連れて庭へ出た。久しぶりに親子でサッカーをし
                ようというのだ。まあサッカーと言っても、2人で交互に蹴り合いをするだけなの
                だが。
                そんな彼らをしばらく見守っていたカテリーナは家に入った。
                そして階段を上がり、ジョージの部屋へ入って掃除を始めた。男の子の部屋にして
                は小綺麗にしている。
                そして床を掃いていたカテリーナは、何かがぶつかってコロコロ・・と自分の方に
                転がってきたものに目を留めた。
                「あら・・これは」
                それは、羽根ペンだった。
                が、それを手にした彼女は眉をひそめた。
                羽の部分はそれのだったが、先には小刀がついていて、明らかに細工したものだっ
                た。
                これは売っているものなのだろうか。いや、羽根の先は切られ、刃を糸が何かで巻
                き付けた単純なものだ。

                カテリーナは、外から戻ってソファで寛いでいるジュゼッペの元へやってきた。
                「ねえ、あなた・・」
                「ん?」
                ジュゼッペはカテリーナが差し出したものを手にした。
                「どうしたんだ?これは前にジョージにあげた羽ペン・・・・」
                そこでジュゼッペは口をつぐんだ。刃に気づいたのだ。
                彼はじっとそれを見つめていたが、やがて重々しい口調で言った。
                「・・・あいつはやっぱり俺たちの子だな」
                カテリーナはうつむき、キュッと唇をかんだ。
                「・・・どうした?大丈夫か」
                「私は・・」彼女は震えていた。「私は、あの子を、殺人鬼にしたくないわ!」
                「・・・」
                「普通の子として生きてはいけないの?・・あの子が・・不憫すぎるわ」
                ジュゼッペは何か言おうとしたが、カタン、と物音が廊下から聞こえてきたため、
                そちらに視線を移した。
                「・・・ジョージ・・」
                ジョージはちょっと離れるようにして立っていた。そしてこう叫んだ。
                「・・パパもママも、喧嘩しないで」
                ジュゼッペは笑って言った。
                「はは・・喧嘩なんてしてないよ、ジョージ」
                「僕が悪いことしてたなら謝るよ!だから・・・」
                カテリーナはとうとう泣き出したジョージをぎゅうと抱きしめた。
                「いいの・・いいのよ・・・あなたは悪くないの・・ごめんね、ジョージ」
                「ママ・・・」
                ジョージはふとジュゼッペの手にしているものを見て、彼のところへやってきた。
                「パパ、それ僕のだよ!」
                「ジョージ、すごいな、作ったのか?どうやったんだ」
                「内緒!」
                「ふーん?」
                ジュゼッペはジョージを抱え込んでくすぐり始めた。
                「教えないもーん・・・」
                カテリーナはクスッと笑い、台所へ向かった。今日も手作りのドルチェを作ってい
                たのだ。
                彼女はそれを彼らのところへ持ってきた。
                「さあ、もう終わり。おやつにしましょう」
                カテリーナは微笑んだ。


                ジョーは顔を引き締め、それを天井へ放った。それは空を割き、シュッと音を立て
                て突き刺さった。
                「ギャラクターの血が入ってようが、関係ねえ。そいつを生かして奴らを潰す。そ
                れだけだ!」
                彼はじっと羽根手裏剣を見つめた。
                「・・必ず・・」

                そして目を閉じた。



                                ー 完 ー








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