『 イース ターエッグ 』





               健は博士の書斎のドアを叩いた。
               返事はない。が、彼はドアを開けて中へ入った。
               やはり誰もいない。

               「あれ、ジョーがいたと思ったけど」

               健はジョーがいたと思われる机に近づくと、あれと思った。
               そこには2個卵があったのだ。

               「なんだろう、この卵。ジョー、また勝手に台所から持ってきちゃったのかな」

               ジョーは来た当初よりは収まったものの、この別宅ではかなり好き放題にやっている
               という話だ。
               そして今度は健がやってきたということでいたずらがまた増えた。
               おそらく一人でわがままできたのに、もう一人いるんじゃ相手にしてくれない。
               ジョーは多分健にライバル意識を持っているに違いないが、健もそして本人もそれに
               気づかないでいた。

               それにしても・・

               ぐぐぐぐ〜っ

               「お腹すいたなあ」

               健はお腹を押さえ、その卵に手を伸ばした。ゆで卵のようだ。
               どうしよう。

               しかしその次の瞬間には殻を向き、むしゃむしゃと食べ始めてしまった。塩気が欲し
               い感じだったが、お腹が空いている彼はそれはどうでもよかった。

               でも、と健はふと机上の物に気づいた。
               そこにはクレパスと何色か揃ったサインペンのセット。

               あ。これってもしかしてー

               そこへドアが開いてジョーが入ってきた。

               「うっ、う・・」

               健はあまりの出来事に胸を叩いた。黄身が喉に引っ掛かりそうになったのだ。

               「・・・・」

               まずい、ジョーの奴、俺を見てるぞ。卵を食べたな、そんな顔つきだ。

               ジョーはつかつかと歩いてきた。何をする気だ。俺を叩くのか。よし、もしそうなら
               俺もー

               と、ジョーはもう一個をつかみ、同じように殻をむいて食べ始めた。
               「・・ふん、半熟だ。これじゃイースターエッグに向いてない」

               そして彼は健の殻も集めて紙に包んだ。
               「またもらってこよう。お前も描くだろ、絵」
               「う、うん・・・」

               ジョーは部屋を出て行った。
               健はほうっと息を吐いた。


               「おばちゃん、卵半熟だったよ。もっとかた茹でにして」
               「あらまあ、坊ちゃん、食べちゃったの?」
               「うん。お腹すいたんだ」

               その後新しい卵に2人は思い思いの絵を描いた。
               そしてそれは博士の書斎の机にあるカゴに並べられた。

               新しい年が素敵になりますように。
               そんな願いを込めて。



                              ー 完 ー







                               fiction