『 蒲 公英の冠 』



                 黄色い花一面が咲き乱れ、そこは辺り一面眩しい光が注いでいた。
                 そんな花の中で1人しゃがみ込み、手を動かして何かを作っているジョージの姿
                 があった。
                 時々、花が風の吹くままに身を任せて揺れている。
                 やがてジョージは手を止めた。
                 「出来た!」
                 それは丸く象った、冠だった。
                 ジョージは立ち上がると、家まで駆けて行った。
                 「ママー!」
                 彼は中に入ると、あちこち回った。台所や居間、2階の自分の部屋・・。
                 でも、中は静まり返って物音一つしない。
                 どんなに探しても母親はいない。当たり前だ、今日も出掛けているからだ。
                 それはいつもの事だし、ジョージは分かっていた。彼女がいないという事を。
                 でも、今回は違った。急に悲しくなり、ジョージは大粒の涙を溢れさせた。
                 「ママー、ママー・・・」

                 ジョーははっと目を覚ました。そしてゆっくりと起き上がった。
                 「・・・・」
                 何だってこんな夢を。何だかリアルな夢だな。
                 彼は苦笑いをしてさっと目に手をやった。
                 ジョーは立ち上がると、荷物を手にし外に止めてある車へ向かった。
                 今日は大事なレースのある日だ。
                 ジョーはレース場に到着すると、荷物を持って建物の中へ入った。
                 着替えて出ると、数人の仲間たちが声を掛けてくる。彼をめざとく見つけた記者
                 を適当にあしらうと、今度は熱狂的なファンへの対応だ。
                 彼は一通りの”儀式”を終えると、マシンに向かった。
                 今日は調子がいい。それはエンジン音で分かる。やはり彼がぶっちぎりだった。
                 メカニックに任せて車から降りた彼は、決まったように丘の上にやってきた。
                 ジョーはここが好きだった。子供の頃父親と一緒にレースを見たときの場所に似
                 ていたし、ここでも見晴らしがいい。
                 そして彼はある場所に目を遣って思わず足を止めた。一面に黄色く染まっていた
                 からだ。
                 「もう蒲公英が咲いているのか」
                 彼は近づいてそこへしゃがんだ。蒲公英の花びら一つ一つがしっかりと伸びて太
                 陽の光を浴びようとしている。
                 ジョーは夢に出て来た黄色い花を思い出した。確かあれは「ミモザ」だ。彼の故
                 郷でよく見られる花だ。ジョージはミモザの冠を作っていたのだ。
                 ジョーは1本の蒲公英をつんで香りを嗅いだ。
                 「じゃあ俺はこれだな」


                 ジョーのトレーラーハウスにお客さんが来た。ジュンと甚平だ。ジョーは快く彼
                 らを向かい入れた。
                 中へ入ったジュンはあ、という顔をしてベッド近くの壁に掛かる花輪を見つめ
                 た。
                 「あらあ、蒲公英?どうしたの、これ。可愛いわね」
                 ジョーもそれを見た。
                 「・・ちょっとした思いつきさ」
                 すると甚平。
                 「ねえねえ、それよりオイラ腹減ったよ〜、ジョー、早く作ろうよ!」
                 「もうっ甚平ったら、ロマンがないのね!」
                 「いいじゃねえか、”花より団子”だよ!お姉ちゃんだって本当はそうだろ?」
                 「何ですって!」
                 ジョーは笑ってエプロンを手にすると、甚平に放り投げた。
                 「はら、甚平、始めるぞ」
                 「よしきた!」
                 「2人とも頑張ってね。楽しみにしてるわ」
                 「何だか逆だなあ・・お姉ちゃんずるいよ。それじゃあいつまでたっても作れな
                 いぜ?」
                 「いいのよ、これで」
                 「・・・ちぇっ・・」
                 ジョーは甚平を弟子にして料理を始めた。そしてジュンはそれをワクワクした表
                 情で眺めた。
                 2人はどうだか分からないが、ジョーには壁に掛けた蒲公英の冠もそんな彼らを
                 優しく見守っている感じがした。
                 もう永遠に母親に届けられないその冠。でもずっと彼女が側にいてくれる気がし
                 て彼は心が穏やかになる気がした。




                    今回はこちらのお題をアレンジして作りました

                   「蒲公英で冠を作っているコンドルのジョーをかきましょう。
                    http://shindanmaker.com/149262 」








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