『 葛藤  』





                薄暗い洞窟は奥深く続いていた。
                天井から雫が落ち、溜まっているのか水の跳ねる音が周りに響く。

                そこを銃を構えたギャラクターの隊員が周りを伺いながら歩いていたが、
                ビュッと鋭い音がして羽根手裏剣がのど笛に突き刺さり、彼はうめき声
                をあげて倒れた。
                その前から歩いてきた健はほっとしたように手にしていたブーメランを
                腰もとに戻した。
                「さすがに早いな。俺が構えた瞬間にはもう飛ばしてるんだからな。」
                その後ろを歩いていたジョーはかすかに微笑んだ。
                「どうやら奥が怪しいな。慎重に進もう。」
                「・・ああ。」
                2人はまた前を進みだした。

                しばらく行くと少し開けた場所に来た。するとカチッと銃のセットする
                音が聞こえ、一斉に彼らに向かって射撃された。
                健とジョーはとっさに2手に分かれて舞い上がり、相手に立ち向かった。
                「バードラン!」
                こんな時は切り込み隊長的な役割の健の発揮どころだ。これを突破口と
                して他のメンバーもそれぞれの持ち場を生かせるのだ。
                ジョーはギャラクター隊員たちの中でも構わず駆け抜け、その間に羽根
                手裏剣を飛ばし、的確に相手を倒して行った。
                そして彼は曲がり角に来て一人の隊員と出くわした。そしてジョーは口
                に羽根手裏剣を咥えると相手はとたんに立ち止まり、銃を落として
                しまった。
                「・・・・。」
                彼は慌てて銃を拾って構えたが、手が震えている。ジョーはやれやれと
                羽根手裏剣を手にして近づいた。
                「よ、よるな、う、撃つぞ・・」
                ジョーは鼻で笑った。
                「おいおい、どうしたよ。具合でも悪いのか?」
                「・・・来ないでくれ。見逃してくれ、頼む。」
                ジョーは隊員の足下に落ちている何かに気づいて拾った。それはロケット
                で、開くと中に女性と小さな子供が写っている写真があった。
                「これはお前の家族かい?」
                「あ、ああ・・」
                隊員は奪い取るようにそれを取り、大事そうにしまった。
                ジョーが何か言おうとしたとき、銃声がしてその男は絶命してしまった。
                「・・・!」
                ジョーは振り向き、その銃を撃った別の隊員をしとめた。
                きっとこの男が捕虜になるのを恐れたのであろう。ただ話をしただけなの
                にー。
                ジョーはもう何も言わなくなった隊員をじっとみつめ、やがて前を進ん
                だ。
                しかし何だか彼の心にはもやもやした変な感じが渦巻いていた。
                再びギャラクターたちが姿を現し、ジョーは条件反射的にエアーガンや羽
                根手裏剣で応戦した。
                が、追いつめたところでその手を止めてしまった。
                こいつにも家族がいるかもしれないー。
                あいつのように死んでしまったらその家族は遺されてしまう。
                そう、彼の両親のように突然いなくなってしまうのだ。
                「・・・・・。」
                ジョーはどうしたらいいのか分からなくなってしまった。急に怖くなった
                のだ。
                それを見逃さず、相手は銃を構えた。が、その瞬間ブーメランが飛んでき
                て彼を倒した。
                「ジョー、大丈夫か。」
                健は立ち尽くしているジョーのところへゆっくり歩いてきた。
                「・・・・・。」
                「どうしたんだ、お前らしくないぞ。」
                「・・・・・・敵とは言え、命を奪っていいのか・・」
                「・・・・・。」
                健はじっと倒れているギャラクターを見下ろしした。
                「しかし、やらなければこちらが危ないぞ。」
                「・・・・。」
                ジョーは何も言わず行ってしまい、健は後に続いた。

                外に出るともうすっかり陽が落ちていた。中を叩いたが、結局何も
                掴めなかった。
                ジョーは両親の事をすっかり知ってしまって以来、葛藤する心に
                悩まされていた。ギャラクターは彼らを惨殺した。が、その両親も
                またギャラクターの一員だった。
                同じように他の隊員たちにも家族がいて彼らの帰りを待っているだろう。
                かつての自分のように。
                きっと子供たちは同じように親が何をしているのか知らないかもしれな
                い。
                自分はそんな彼らをただ憎いだけで殺めていいのだろうか。
                健はそんなジョーを見て同じように暗闇に染まってゆく空に視線を移し
                た。
                彼もまた似たような思いを抱いていた。父親を殺されて以前にも増して
                彼らを憎く思っているが、何度も繰り返される戦いに何だか嫌気が差して
                いた。
                しかし地球の平和を守る使命が彼らには課せられている。不条理でもやり
                通さなければならない。
                2人は一種のむなしさを感じつつ、それぞれの愛機で基地へと戻った。







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