『 俺は猫である(後 編) 』








               「ああ、諸君。よく来たね」
               「博士」
               猫は博士を見るなり、鳴き出した。
               「ニャー!(博士!)」
               博士は、ん?という顔でジュンに抱かれている猫を見下ろした。
               「どうしたんだね、この猫は」
               「ついて来ちゃったんですよ・・」
               困ったように甚平はそう言ったが、降ろされた猫は必死に博士の足元で戯れている。
               「ニャー、ニャー」
               「博士に随分甘えてるなあ」
               博士は改めて4人を見た。
               「それより、ジョーはどうした」
               「それが・・」
               「あいつ、とうとう返事よこさなかったな」
               「寝てんのとちゃうか?」
               「竜じゃあるまいし」
               「ふんっ」
               「ニャー、ニャー」
               猫は博士の脚を前足で叩く仕草をし続けた。なので、博士は猫を見下ろした。
               「ん?なんだね?」
               そう言ってじっと博士は猫を見つめた。
               「・・・・」
               なんだか猫の瞳が何かを訴えているかのようにうるうるして自分を見つめている。
               (博士〜・・何とかしてください・・)
               博士は考え事をしているようだったが、やがて猫を抱き上げるとこう言った。
               「わかった。私がしばらく預かろう」
               「え〜、何でえ?」
               驚く諸君を代表して甚平が言った。
               「腹を空かしているのだろうし、それにー店には置けないだろう?」
               「それなら俺が預かります。なあに、猫の1匹や2匹・・」
               博士は健に微笑んで答えた。
               「いや、健、大丈夫だ」
               「第一、兄貴、キャットフード買えんのかい?」
               「・・・心外だなあ・・」
               「でも博士のところだったら安心だわ。(猫に)いい子にしてるのよ、猫ちゃん」
               そう言ってジュンは猫の頭を撫でたが、猫は困った顔をしているようだった。誰も気
               づかなかったが。


               博士からの連絡が済むと忍者隊はそれぞれ帰って行った。そして猫だけ残された。
               博士はしばらく窓際で何かを考えていたが、振り向いてソファの上でじっとしている
               猫に視線を遣った。
               「そこが落ち着くのかね?」
               猫は博士を見た。
               「かつて一緒に暮らしていた子供たちがよく遊んでいた場所だ」
               そして彼はじっと自分を見上げている猫にこう言った。
               「一緒においで。退屈だろう」
               博士は猫を抱くと部屋を出た。
               しばらくしてある扉を開け、地下へと続く階段を下り始めた。
               「これを見るのは君だけだぞ」
               扉を開けると博士は猫を下ろした。そこは大きな部屋、いや体育館か何かの会場のよ
               うなスペースで、金属を叩く音や溶接する時の火花のスパーク音があちこちで聞こえ
               る。
               「ここはバードミサイルの製造工場だ。こうして使用されるたびに造っている」
               猫はじっとその様子を見つめた。しかも興味津々だ。
               「これを造るのには様々な工程があり、オートメーション化された部分と人の手で行
               なわれている。もちろん武器として使われるのは仕方ないことだが、その裏には技術
               者たちの英知、そして努力がある」
               博士は猫に視線を向けた。すると猫はうずくまり、そっと博士の顔を伺うように見上
               げた。
               博士は笑った。
               「咎めているのではない。確認したかったのだ」
               博士は猫を抱き上げた。
               「それじゃ行こう。もどに戻す薬もあるはずだ」
               そしてドアを開けて出て行った。


               博士は窓から外を眺めていた。そして彼の隣では研究員が立っていた。先ほどまで小
               さくなっていたのだが、結果オーライとなったのか普通にしていた。
               「・・ところで、今度は何の研究をしていたのだね」
               「実は・・動物の生態をより深く理解するためにどうしたらいいかと話し合ってた
               時、その動物の気持ちになってみるといいかもしれないとの意見がありまして・・ま
               あ、冗談だったんですが、いっそ動物に変身してしまったら面白いんじゃないか
               と・・」
               「それは思い通りの動物になれるのかね?」
               「そうですね・・・。多分、その人にとって一番身近で大切に思っている生物にな
               る、という感じでしょうかね」
               博士は視線を戻した。
               「・・・なるほど。わかったよ。それでか」
               そして続けた。
               「ああ、君。自分のものはちゃんと持って帰ってくれよ。そうでないと、私の部下が
               何かしでかしてしまうからね」
               「はい、すみません」


               森の木々の中にそのトレーラーハウスがあった。今日はとてもいい天気だ。ジョーは
               ホースの水を周りの草花たちに撒いていた。
               「ニャ〜」
               そこへルナがやってきて彼の脚に体をこすりつけ、甘える仕草をした。
               「なんだ、ルナ。もう腹減ったのか?」
               しかしルナは甘えるばかりでそんなそぶりもない。
               「なんだ、違うのか?おい、そうひっ掻くなって。分かったよ」
               ジョーはルナを抱き上げた。そして甘える彼女を優しく撫で、ホースを片付けてト
               レーラーハウスの中へ入っていった。





                            ー  終わりにゃ♪ ー





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